第13話 『オネエチャンストップ!』

「待ってくれレイア! 脱ぐのは後にしよう! 脱ぐのは後にしよう! な!?」


 俺は焦っていた。

 何故なら、上半身裸でうつぶせに寝転がる俺の上に跨ったフレイアがその状態で着ていたナース服を脱ごうとしているからだ。

 しかも下は履いてないとか言い出したので、もし脱がれたら取り返しのつかない事になってしまうのである。


「……いじわる。ナオツグも裸なんだから、アタシも脱いだって良いじゃない」


 でもフレイアは待ってくれなかった。

 ……いじわると、しおらしく言ってるけどただ自分も脱ぎたいだけである。

 だけど後ろから跨られている俺は何もできないし、無理やり身体ごと振り向いたらそれはそれでノーパンらしいフレイアと大変な事になってしまうかもしれない。

 

 つまり、俺一人の力ではもう完全に脱出は不可能だったんだ。

 そんな絶望とも希望とも言える窮地に立たされた時である――。


「レ、レイア! ストップ! ストップ~!!」

「うお!?」

「えっ!?」


 ――俺の部屋の扉が、バンと大きな音を立てて開いたんだ。

 廊下から部屋の中に飛び込んできたヒーローは、チアガールの恰好をしている。

 金髪碧眼でフレイアと同じ顔の美少女は、誰がどう見てもフローラだった。


「そ、それ以上はダメです! エッチです! ジャパニーズヘンタイですよ~!!」


 そんな双子の姉であるフローラは、ベッドの横で顔を真っ赤にしてアタフタと慌てている。

 助けに来てくれたにしては頼りない。だけど俺には、フローラだけが頼りだった。

 でもベッドの横でピョンピョンと飛び跳ねるのは止めてほしい。

 俺の目線の高さ的に、どうしても短いスカートの揺れに注目してしまうからだ。


「ね、ネエサン!? 今はアタシの番よ!?」

「順番とかあったのか!?」

「終わりです! もう終わりです~! レイアの方が長いですよぉ~!!」

「二人とも俺の話を聞いてくれない!?」


 双子の姉妹が言い合っていて、俺は相手にされていなかった。

 

「だ、だいたいネエサンは『ナオツグにパンツを見せちゃって顔も見せれないよ~』って一度部屋に帰って来たじゃない!」

「そ、それはもう終わりました~! 今はほら、ちゃんとチア用の見られても良いの履いてますよ~!!」

「うおおっ!?」


 姉妹喧嘩、と言って良いのだろうか。

 その姉妹喧嘩の余波で、また短いスカートをめくるフローラが現れた。

 確かにさっき見た白のフリル付きパンツじゃなくて黒のショートパンツになっていたけれど、それでもスカートをめくるっていう動作には変わりがない。

 

 しかも今回は俺の目線の少し上と、位置がかなりヤバかった。


「お、落ち着いてくれフローラ! それとレイアも! ふ、二人とも仲良いんだから、喧嘩なんてしないでくれー!!」


 俺は叫ぶ。

 いや、叫ぶしか出来なかった。

 状況的にも取れる手段は説得だけで、まずは二人を落ち着かせないといけない。

 そうしないと、ヒートアップしてもっと大変な事になりかねないのである。


 二人と過ごしてまだ三日だけど、やっぱり日本人と比べると感情表現がかなりストレートだと感じる。

 もちろん良い意味でだけど、今回に関しては悪い意味だった。


 主に、俺の情緒が持たない的な意味で。


「ナオツグ……」

「ナオツグ……」


 そして必死な俺の想いが通じたのか、二人が揃って俺の名前を呼ぶ。

 良かった、落ち着いてくれたか……?


「そ、そうよね? ごめん、ネエサン……。アタシ、ネエサンが急に入って来たからビックリしちゃって……」

「い、いえワタシこそごめんなさい……。ずっと扉から覗いてましたけど、このままレイアがナオツグと仲良くヘンタイしちゃうんじゃないかって思って……」

「ふふっ、アタシがネエサンを差し置いてそんな事するワケないでしょう?」

「レ、レイア~!」


 仲直りした姉妹が、俺の上で抱擁を交わす。

 うん、一件落着で良い話だな……いや、良い話か……これ?

 何かどっちも変な事言ってる気がするけど、絶対に俺の気のせいじゃ無いよな?


 で、でも二人の仲が悪くなるみたいな大事にはならなかったしこれで良い筈だ。


「じゃあネエサン、アタシたち二人でナオツグにマッサージの続きをしましょ?」

「はい! ワタシたち双子で、仲良くナオツグを癒しちゃいますよ~!!」

「んんっー!?」


 そして笑顔で仲直りをした二人は、すぐ下にいる俺に視線を向ける。

 身の危険を感じた俺だけど、この良い雰囲気の中で断る事なんて出来なかった。

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