第3話 『フローラとフレイア』

 俺が街中でフローラとフレイアの双子姉妹と出会い、我が家へホームステイで向かい入れてから早くも三日が過ぎた。

 女子二人との共同生活、慣れない日本文化、一緒に暮らす上でのルールの取り決めや家事の分担、それから歓迎パーティに寝れない夜とか……この三日間を日記に記録するだけで、丸々一冊を使い果たしてしまうかもしれないぐらい濃い時間を過ごしたんだ。


「はぁ……」


 そんな新生活を迎えた俺だけど、実はめちゃくちゃ悩んでいた。

 理由はもちろん、フローラとフレイアの双子姉妹である。

 何故なら……ただでさえ綺麗で可愛くて美人でスタイルが凄く良い美少女なのに、二人とも距離感がバグりまくっていたんだ。


「あ! ナオツグ~!!」

「うわっ!? ふ、フローラ!?」


 その悩み、その一が双子姉妹の姉であるフローラだ。

 春休みの朝。

 リビングのソファに座っている俺を見つけたフローラがいきなり背後から抱きついてきたんだ。

 むにゅっと背中に大きな柔らかさを感じながら、その華奢な手は俺の胸元に回されていて、俺を離そうとしない。

 正直凄く嬉しいけれど、付き合ってもいない同い年の女子にこんな事をされては俺の心が爆発してしまいそうだった。


「ナオツグ~! おはようございま~す!」

「お、おはようフレイア! な、何度も言ってるけどさ、女の子が急に異性に抱きつくのはやめた方が良いよ!?」

「ん~? カナダだと挨拶のハグは普通ですよ~?」


 真横から俺の顔を覗きながら、フレイアが首を傾げる。

 近い、とても近い。何かの拍子でバランスを崩したら、そのままほっぺたにキスをされるんじゃないかってぐらいに近かった。


「こ、ここは日本だからさ! は、離れようか?」

「ムゥ~……」


 フローラはちょっと不満そうにしながらも、素直に俺から離れていく。

 彼女が言う通り、フローラとフレイアはカナダ出身の双子だと教えてくれた。

 カナダ、つまりアメリカの上。北アメリカとか北米とかも言うけど、ざっくり言えば大きな意味でアメリカなので、イメージ通り大らかだからやっぱりハグは普通なのだろうか。


 ちなみに自慢じゃないけど、俺は地理が大の苦手だ。

 ていうか勉強がそんなに得意じゃない。


「じゃあじゃあ~、何か手伝えることありますか?」

「え? いや、今は、無いけど……」


 そんな俺の隣に座ってきたフローラがまた距離を詰めてくる。

 ゆったりとした服装が好きなのか、家にいる時も最初に出会った時と似たようなワンピースタイプの部屋着を着ているフローラ。


 だけどすごく丈が短くて、俺はかなり目のやり場に困っていた。


「何でも言ってください! ナオツグの為ならオネエチャン何でもしますから~!」

「あ、ありがとうフローラ……その気持ちだけでも嬉しいよ」

「えへへ~!」


 嬉しそうにフローラは可愛く笑う。

 でも俺は、それどころじゃなかった。

 隣に座って押し当てられる柔らかな身体、薄手のワンピースは身体のラインがしっかりと出ていて、特にふとももはむき出しで直視が出来ない。


 しかも凄く良い匂いがする。

 出会った時からずっと思ってたけど、フローラはとても良い匂いがするんだ。


「ふぅスッキリー! ……って、ネエサン。また今日もナオツグにくっついて困らせてるの? ナオツグも遠慮しないで、ちゃんと言った方が良いわよ?」

「れ、レイアぁ!? 服っ、服ぅっ!?」


 その悩み、その二が双子姉妹の妹であるフレイアこと、レイアだった。

 代謝が良い彼女はシャワーを浴びる事を好み、昼間だけでも三回はシャワーを浴びる。それだけなら問題は無いけれど、問題はその服装だった。


 首からバスタオルをかけて、灰色のパンツ。

 もう一回言う。

 上半身裸で首にバスタオルをかけて胸元を隠し、灰色のパンツ一丁で家中を練り歩いていた。


 ほとんど裸の恰好、いわゆる裸族。

 それを俺がいる空間でも平然とやっている。

 フローラと違ってボディタッチは無いけれど、そもそもちょっと動くだけで見えてはいけないものが見えてしまうのは思春期男子的には大問題だった。


「服? あー、日本って暑いわよねー。本当にまだ三月なの?」

「暑いのは分かったけど服は着ようか!?」

「何焦ってるのよ? ネエサンと違ってアタシの裸なんて見たって意味無いし、もう見慣れたでしょ?」

「意味あるし見慣れないけど!?」


 彼女もまた、違う意味で距離感がバグっている。

 最初は暴走するフローラを止めてくれてマトモだと思っていたのに、こっちはこっちでマトモじゃなかったんだ。


「ナオツグ……」

「え? ど、どうしたのフローラ?」

「レイアばかり見ちゃ駄目です……」

「ごごごごっ、ごめんっ!?」


 僕は今、何を謝っているんだろうか。

 でも女の子が頬を膨らませて拗ねていたら、謝るのが男じゃないだろうか。


「ワ、ワタシのなら、いつでも……」

「フローラは自分をもっと大事にしようか!?」


 何やら危ない事を言いそうになったので、慌てて言葉を遮る。 

 こんな感じで、双子なのにまるで違う理由で俺は二人にドキドキしっぱなしだ。


 何故かは知らないけどやたらと好感度が高すぎる姉フローラ。

 異性として見られていないにしても無防備すぎる妹フレイア。


 どうしてこんな最初から初めて会った男子に無警戒で好意的に接してくれるのか?

 その理由を聞けないまま、早くも三日が経過していたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る