第一章 海外から双子がやってきた
第1話 『双子姉妹との巡り合い』
三年しかない高校生活の一年目が終わった。
春休みという微妙な長さの休みをどう使うかはとても重要だと思う。
部活、遊び、ゲーム、旅行、バイト……勉強は、まあ、そこそこに。
一年前はまだ中学生だったという事実も抜けて、大人への一歩を進みだした俺こと、
『明日からそっちにホームステイする女の子がいるからよろしくね!』
「……はぁ!?」
――海外出張している母さんからの連絡で、ようやく慣れ始めた一人暮らしという日常が一気に崩れようとしていた。
「母さん待って……もう一回言ってくれない?」
『えー? 鼻息荒くして、そんなに嬉しい? 直嗣も男の子ねぇ……』
「いやいや! 男の子ねぇ、じゃなくて! 女の子がホームステイって何!?」
『そのままの意味だけど? ほら直嗣の高校って海外と交換留学してるんでしょ?』
「してるけどさ! 色々と急じゃないか!?」
確かに。
俺が通う
だけど、明日から急に我が家へホームステイしてくる子がいると言うのは別問題じゃないだろうか。
しかも女の子って……女の子って!
『急じゃないわよ? ちゃんと交換留学の手続きとか試験とか受けてるんだから』
「そっちじゃなくて! 何で俺の家に女の子が来るのかっていう話だよ!」
『我が家が学校から近い、母さんがその家の人と友達、私自慢の一人息子なら任せられると思ったから。これじゃ駄目?』
「う……」
スマホ越しから淡々と理由が告げられる。
聞いてるこっちが恥ずかしくなる事実を突きつける母さんに、俺は一瞬だけ言葉が詰まった。
「だ、だけど……年頃の男の家に女の子が来るなんて」
『大丈夫よ! こっちの子は強かだから! それに――」
「それに?」
『――あぁ!? ご、ごめんね直嗣! そろそろ母さん商談の時間だったわ! 安心して! 仕送りはちゃんと人数分増やしておくからお願いね! 愛してるわー!』
「え? 母さん? 母さーん!?」
いくら叫んでも通話が切れたスマホでは、母さんに俺の声は届かなかった。
それが、昨日の夜の出来事で――。
◆
「おっも……」
――次の日、俺は街へ買い出しに来ていた。
海外からホームステイに来るなら、必要になる物がたくさんあると思ったからだ。
だから俺はこうしてホームセンターを巡って、両手いっぱいに買い物袋をぶらさげていたんだ。
「あっつ……」
昨日まで涼しかったのに、今日はとても良い天気で暖かい。
三月だし大丈夫だろうと長袖で家を出たのが完全に裏目に出てしまった。
完全に春の陽気だ。
「急げ急げー! バス来ちゃうぞー!」
「ま、待ってよー!」
「……おっと!」
そんな汗だくの俺の横を、二人の少年が通り過ぎていく。
肩にはスイミングスクール用のバッグをかけていて、バッグの縛り口からはバスタオルがはみ出ていた。
「あ、ごめんなさーい!」
「す、すみませーん!」
「おー! 気をつけてな―!」
「「はーい!」」
無理やり俺の横を通り過ぎた二人が振り返った。
別にぶつかった訳じゃないけど、礼儀正しい少年たちは頭を下げて走っていく。
そしてタイミングよく、市営のバスが横の道路を進んでいった。
遠くではバス停でバスが止まって、少年たちが乗り込んでいくのが見える。
間に合ったようで、良かった。
今日は暖かいし、室内プールでも気持ち良く泳げるはずだ。
「……懐かしいな」
バスが走り去っていくのを見て、つい口から溜息が漏れる。
俺にもああやって、泳ぐのが楽しくて仕方ない時期があったんだよなぁと――。
「……ん?」
――思ったところで、声が聞こえたんだ。
『ネエサン、ここ降りる場所じゃないわ!』
『えぇ~? でも、伊城住宅地前って書いてあるよ~?』
『ここは伊城東住宅地前だって!!』
『違うの~?』
『違うわ! 東よ東! 何で東って間に入ってるのよ!? 先に書きなさいよ! 先に!』
その声は英語で、バス停の前に立つ二人の女の子のものだった。
遠目からでもあの二人が美人で、腰まで伸びた金色の髪が綺麗なのが分かる。
横には大きなキャリーケースが二つあって、春休みを利用した旅行客だろうか?
『ん~、じゃあ次のバス待つ~?』
『それしかないけどさ、何かバスたくさん走ってない?』
歩いてだんだん近づくにつれ、その姿がより鮮明に見えてきた。
多分年齢は俺と同じぐらい。
そして何より特徴的なのは、その二人がほとんど同じ顔だと言うことだった。
この街は観光地でもあるので外国から来る人は珍しくないけど、外国人の双子は珍しい。
でもこの街に来る観光客って街外れにある山に日帰り登山がメインだから、キャリーケースを持って登山はしないよなとも思った。
『あ! ほらレイア~! バス! バス来たよ~!』
『え? あ、本当だ。待たなくてもすぐに次のバスが来るなんて、流石日本ね』
そんな二人がバス停の前に立ち止まっていたからだろう、後からやってきたバスが俺の横を通り抜けてバス停に停まった。
それはさっき少年たちを乗せていった市街地を走るバスじゃなくて、街を抜けて山へと向かうバスで。
『良かったね、レイア~!』
『そうね。ネエサン早く乗りましょ!』
そして二人は、笑顔でバスに乗ろうとしていた。
街外れの山行きのバスに、大きなキャリーケースを持ちながら。
これはひょっとして、マズいんじゃないか――?
「そ、そこの二人っ! ま、待ってくれー!!」
『えっ?』
『な、なにっ!?』
そう思った俺は、いてもたってもいられずに大声を出して二人に駆け寄った。
英語なんて話せないし分からない。
もしかしたらこのバスで合っているかもしれない。
――でも何故か、この二人を放っておけなかったんだ。
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