圧倒
「私から手を出した覚えはない」
不敵な笑みを浮かべながら、私は言った。動揺が広がっていく。まるで話せるとは思っていなかった顔だ。
「疾くと去れ」
こんなにも人の姿をしているのに。
「人ならざる化け物が、我々の言葉を弄するか」
やはり肝の据わっているらしい戦斧の大男が答えた。
「お前は何を以て私を化け物とのたまうのか。理由を述べよ」
「身体の半分が蛇の人間などいないからだ」
「その理屈は、人間以外の生物は皆化け物ということか?」
「人は人、獣は獣。しかし、貴様はそれが混じっている。そんな存在は歴史を紐解いてもいないはずだ。未知なる生物、そして人を殺す残忍性、言語を有する知能、これらは化け物と評するに足る事実だ」
「なるほど。確かにその通りだ」
「聞き分けが良くて結構。どちらが先に手を出したなど関係ないのだ。貴様は生き永らえ、わが同胞はたくさん死んだ。武器を取るに不足はない。恨むなら自分の悪行を恨め。化け物と談笑するほど俺は暇ではない」
「その先を進めば、暇など考えることはなくなるはずだ」
私の言葉を掻き消すように、戦斧の大男は咆哮をあげた。荒々しい獣のような表情を浮かべている。
次の瞬間、頬に風を感じた。
戦斧の大男が私の目の前まで一足で飛んできたのだ。私は感嘆の声をあげる。視認できないほどではないけど、人の出せる速度ではない。私は戦斧の刃を手で受け止めると、そのまま優しく押し返した。
入れ替わるように槍の切っ先が眼前に向かってくる。それは私の頬にあたると、そのまま弾かれた。
気勢を吐きながら、再び戦斧の横凪ぎがやってくる。背中に矢と剣が当たった。私はやはり戦斧を押し返しながら、今度は腰辺りに炎が着弾した。銀髪の少女の攻撃だ。まあ一週間かそこらで進歩するとは思っていないけど、心なしか操作性があがっているような気がする。いや、元々これくらいは出来たのか。人の合間を縫うように飛んできた炎の球は、そのまま何度か着弾するものの、むしろ周りの人たちの攻勢を少し緩めた。
戦斧の大男は銀髪の少女に怒声を浴びせた。もちろん止めるように言ったのだ。銀初の少女は俯きながら唇を嚙みしめている。
私は背中を斬りつけてくる二人を尾で弾き飛ばした。一方は地面に転がると、一方は木の幹に身体を打ち付ける。
戦斧の大男の攻撃は風がその速度をあげ、その分威力も増している。風を纏う不思議な斧だった。大したことはないけど、少し興味深く思った。
真正面から戦斧の大男と対峙する中、まるで別の生物のように蛇の尾は他の者たちを蹴散らしている。尾の先が一人の心臓を貫いた。傍にいた者たちに恐怖が広がっていく。尾はその恐怖を追うように、次へ次へと刺し貫き、尾には五人が連なって絶命していた。
勢いよく振り払うと、死体はあちこちに飛んでいく。更に恐怖は伝播する。戦斧の大男は距離を取るように呼び掛けた。
そして自分は向かってくる。戦斧を掴み取ると、逆の手で殴り飛ばした。戦斧の大男は血反吐を吐き、吹き飛びながら、しかと受け身を取る。着地地点には銀髪の少女がいた。その表情は絶望に染まっている。それは一度見た表情だった。彼女は諦めている。それは他の者も同じだ。
まだ意欲があるのは、戦斧の大男だけだ。彼が最も理解しているだろうに、戦士というのは恐らく彼のことを言うのだろう。
しかし段々と攻勢が弱まっていき、最後まで攻撃を仕掛けていた戦斧の大男は疲労
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