討伐隊

 その日からの探索は少し趣が変わったように感じられた。視線の高さが少し変わったりするだけなのに、どこか違う景色に見える。人の身体のままいると、何故か鬼たちがひと際気持ち悪くうつる。


 返り血や汚れなども気になった。私たち人間の持つ感覚は、その姿かたちをしているから起こりえるものなのかもしれない。蛇の姿だと、血生臭い光景に対する忌避きひ感が薄れているようだ。


 人間たちに鬼が狩り尽くされ、閑散とした森を進む。それでも出会うのは鬼たちなのだから、奴らは少しおかしい。何処から湧いて出てくるのか。根絶やしにすることは無理だろうけど、これではキリがなかった。


 数日経った頃、森の中に人の集団を見つけた。私はいつもの蛇の姿に戻ると、その気配を消した。


 五人組の彼らは、大規模な鬼狩りが行われた時の彼らに似ている。恐らくは同じような存在だろう。剣を持つ者や槍を持つ者、とにかく彼らは私たちを狩る仕事についている。話を盗み聞く限りでは、大規模な鬼狩りは王の個体の発生を危惧きぐしたものだったため、こうして未だ多少の警戒を行っているのかもしれない。あるいは私の撒いた種は……。


 それから何度か人の前に姿を現しては、彼らを虐殺した。


 とはいえ、私の方から仕掛けることはしなかった。彼らからの攻撃を受けた際の防衛反応だ。もちろん人からすれば、蛇の言い分など法廷にあげる筈もないのだけど、それでもこれは、人の倫理観を問う行いである。


 ただの自己満足だ。何人かは生きて返してやった。大規模な鬼狩りが、何らかの情報によって立案されたのであれば、やがて私を狩るための部隊が組織されるだろう。そしてそれは、それほど遠い未来ではなかった。


 一週間ほど経った頃(私は時間の感覚が曖昧だった)森の中に二十人ほどの部隊がやってきたのである。


 前回と違うのは人海戦術をくのではなく、二十人が一塊となって進軍しているようだ。


 最近私は半人半蛇の姿を好んでいた。この人なのか蛇なのか、あるいは善なのか悪なのか判然としない姿が、今の私らしく思った。とはいえ、人と会う時はわざわざ蛇の姿に戻っていたのだけど、少し心境の変化があって、今回の彼らには私の中途半端な姿を見てもらうことにした。


 それは慈悲なく獣を狩る彼らの前に、意思疎通の図れそうな、あるいは常識から逸脱した存在が現れた時、どういうふうに振舞うのだろうかと、ただただ興味に駆られたからである。


 危険も承知だが、彼らを根絶やしにすることはそれほど難しくなく、口封じすれば問題ないだろうと判断したからだ。


 遠巻きから観察したところ、狼王に出会った時の、何か感じ入るような気配もなかった。


 彼らが開けたところに出た瞬間、私は上空から降り立った(恐らくは、私が燃やしてしまった空地かもしれなかった)。


 人間たちの呆けた顔が見渡せる。唯一、先頭を歩いていた大柄の男は抜剣していた。いや、それは剣ではなく斧だった。背負っていた戦斧を振り上げ、切っ先を私に向けている。


 その姿を見たからだろうか、他の者もまた一拍、二拍遅れて臨戦態勢を取り始めた。予め方陣を決めていたのか、瞬時に私を囲うべく立ち回った。私はそれを悠々と眺めていた。


「リエッタ」


 戦斧の大男が声を張り上げた。


 後方にいた銀髪の少女が「は、はい」と驚きながら返事をする。その少女がいることは直ぐに気付いた。そして彼らが私を目指していることも理解した。私の種はちゃんと撒かれていたのだ。


「あれはなんだ」


「わ、分かりません。ただ」


「ただ?」


「相まみえた大蛇と酷似した特徴を持っています。頭上の輪と純白の翼は、確かに大蛇にもあった特徴です」


「ならば、同一個体と判断する」


「戦うのですか」


「当然だ。同胞が随分殺されたんだ」


 私は少女の顔を興味深く眺めた。


 それはおかしな話だ。彼女はどうやら私の姿を見て躊躇ためらいを覚えたようだ。目の前で仲間がやられたはずなのに、少し人に似てきただけで躊躇するとは思わなかった。


 とはいえ、恐らく今度のリーダーである戦斧の大男をはじめ、彼らは私とやる気のようだ。

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