衝突

 私はそれからも鬼たちの拠点と王を探し続けたけど、どこにも見当たらなかった。ただその代わりに、面白いものを発見した。


 尊い犠牲となった五人組と出会ってから一週間ほど、人間たちが群を成して森に侵入してきたのである。


 森に入ってくるのを見たことはあったけど、これは明らかに意図した行軍だ。森の中に入ってくるということは、すなわち何かを殺すために来ている。そしてそれは鬼たちのはずだ、ここは奴らの領域なのだから。


 どういう基準のもとにこれが成ったのかは分からないけど、どうやら鬼たちは人間の怒りに触れたようだ。もしかしてあの五人組が死んだからだろうか。私はこの一週間で殺される鬼も殺される人間も見てきたけど、それが日常的な関係性なのだと思っていた。


 人間が大鬼に殺されるのは、正直彼がの実力差を考えれば、仕方がないような気がするけど、それが最近は多すぎる、ということなのかもしれない。あるいは、ただ定期的に大規模な間引きを実施している可能性もある。そうするべき理由もある。ただ人間たちの表情を鑑みるに、少し空気が張り詰めているような気がする。定期的な恒例行事では、広がりにくい空気感だ。


 もしかしたら、私が確認できていない出来事があったのかもしれない。兎に角、今日は人間と鬼の大合戦がはじまるのだ。私は特等席で眺めることにした。


 人間側の方は、三人、四人、五人と数は違うものの、ある一定の組を作っている。鬼は言わずもがなだけど、それらがぶつかり合った時、至極当然のことが起きる。考えるまでもなく人間の方が強かった。


 小鬼、中鬼までの構成であれば特段手こずることもなく、気を付けるべきは当然大鬼だ。奴だけは人間すら簡単に屠る。


 ただ、大鬼すらも倒してしまう組があった。


 大きな盾を持った大男は大鬼の一撃を受けとめ、二本の短剣を持った小男がその赤い目を切り裂き、後方にいた銀髪の少女の手のひらから、が躍り出た。


 その火の玉は大鬼のいたるところに着弾して、燃え盛る。盾持ちの大男が突進すると、たたらを踏んでいた大鬼がひっくり返った。彼らは一斉に飛び掛かると、大鬼をそのまま仕留めてしまった。


 その手際の良さには私も驚いた。恐らくは個々では大鬼よりも劣るけれど、仲間と連携することでその差を埋めているのだ。


 特に銀髪の少女は異質だった。あれは私の力に似ている。ただ、どこか別物のような気もする。私ほどの火力はないようだけど、人間の中にも特異な術を身に着けている存在がいるのだ。銀髪の少女のような存在は見当たらなかったものの、人間たちは順当に屍を築き上げていった。

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