人
今日は出来るだけ遠くに行くことを目的にする。火の玉を等間隔で撒きながら、空を一直線に進んだ。
拠点の先もまた森が続いているけど、ここらは鬼の縄張りだ。それ以外に違いはなく、そろそろこの景色にも飽きてきた。
私は景色が変化するまで進むつもりだった。空の行軍は陽気に踊る風の御供を連れて心地よく、無粋な来訪者は消し炭になった。昨夜は雨が降ったからか、どこかしこに水気が広がっている。
そのせいで世界がやけに輝いて見えた。私が人の気配を感じたのは、一刻を過ぎたころだ。
鷹も驚くような速度を出していたというのもあるけど、思いのほか簡単にそれは見つかった。明らかに人の手が加わった砂道があった。鬱蒼とした森を抜け、大きな平原に出た。
風の御供が草原を駆け抜け、それに追われて遥か先を見上げると、雲を突くほどの大きな山々が連なっている。
高度をあげて周囲を見渡すと、森から見て左手の方に、大きな都市が見えた。街道がそこに向かって延びている。
思いのほか、人の生活圏の
私が誕生した狼の縄張りと鬼の縄張りのほか、まだ四方に森が広がっていて、それらにも主とする生物がいるのであれば、あの森に安息の地はなく、空を飛ぶものは例外として、何人も立ち入ることが許されないような、魔の領域になっている。
そんな大森林の傍に、あのような巨大な都市を造るとは一体何を考えているのだろうか。流石に、都市のあとからこの森が誕生したということはないだろうけど、人間たちは私の思うよりも強く、大森林の化物すら、いともたやすく殺せるような存在なのだろうか。
人間がどれほどに強いのか、私たちをどう認識しているのか、真っ先に知らなければいけない重要事項だ。当然折角ここまで来たのだから人間を見なければ、私は心躍らせながら街道の傍の繁みに潜んだ。
交通に関してそれほど多いわけでもないようだった。
むしろ鬼たちの交通がある。森から出てくることに躊躇いはなく、というよりは、この人工の道が人間のものであることを知っているのか、どうやら私のように待ち伏せている奴らもいた。
つまり街から街へと移動するだけなのに、こんな気持ち悪い奴らに襲われる可能性があるわけだ。
私は趣旨を変えて、人間が小鬼たちをどうあしらうのか見ることにした。中鬼などの上位種がいないのだから、万が一にも負ける筈はないだろうけど、私はそう予想しながら待つこと一刻ほど、どうやらあの大きな都市から出てきた商隊のようだった。馬車の行列だ。
最初の馬車には人が乗っているようだ。そのあとに続く五つの馬車は荷馬車のようだった。商品が積み込まれているのか、少し馬の足取りが鈍重だ。取り分け気になるのは、その馬車の周囲を侍るように人が歩いていることだ。彼らは皮鎧に身を包み、剣などの武器を所持している。
明らかに周囲の警戒に意識を割き、特に私たちのいる大森林側には一層の視線を向けていた。これはすなわち、彼ら人間もこの森の危険さを理解しているということだろう。成人した大人が武器を持ち、そして警戒しているのであれば、小鬼たちに勝機はない。
実際その通りになった。馬鹿な奴らは意気揚々と繁みから飛び出すと、それを警戒していた護衛の一人に斬り伏せられる。商隊は歩を止めることなく、襲撃の傍にいた二人の護衛だけで迎撃を終えた。まあ、そんなものだろう。少なくとも私が潜伏していることに気付かないのであれば、埒外の察知能力を持っている、というようなことはないようだ。
むしろ小鬼たちのお粗末な潜伏ですら気が付かなかった。奴らが飛び出てきたから対処しただけだ。
この相手が鋭利な足を持つ蜘蛛なら一人は殺されていたはずである。人間も個体によっての優劣はあるのだろうから、今のを基準にするべきではない。兎に角平均値を得るための対象が少なすぎる。
私は少しでも情報を得るため、暫くの間この街道に潜み続けることにした。この時に思い知らされたのは、やはり小鬼の数は群を抜いているということだ。一体どこから湧いてくるのか、出てきては殺され、出てきては殺され、ただそれが尽きることがないのだ。
学習能力のない馬鹿ではあるから対処は簡単だけど、通りすがる人間たちから漂ってくる嫌悪感から、随分嫌われているように見える。駆除しても湧いてくる醜い存在に、好感を示す生物もいないだろうけど。
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