その先へ
根城とした岩山の向こう側にはまだ進んだことがなく、最大の敵を打倒した私はその方角の探索に乗り出した。
こちら側にも狼は多く、また猪や鷹も見かける。よく見知った顔を見るけど、数種知らない存在も確認できた。
あの岩山を境に生態系が少し違っている。それだけあの周辺で狼たちが猛威を振るっていたのかもしれない。実際いたのは、そういうのを気にしない蜘蛛と猪、空を自由に舞える鷹などの生物だったわけだから、あながち間違った考察でもないだろう。新たに確認出来たのは熊、鬼、蛇だった。
四肢が岩のような甲殻に覆われた熊、一本角がはえた小鬼、枯草のような色味の細長い蛇。
やはりその中でも異彩を放つのは一本角の小鬼だろう。私が鬼と称したのはその矮小な角であるけど、それは特段どうでもよく、見るべきところがあるのは、その数の多さである。
帯電する狼の厄介なところは数の多さと統率力だった。そしてここで数が多いのは鬼である。
私が警戒するのは、その王がいるのではないか、ということだ。
一方で蛇は毒性を持つようではあるけど、それほど特筆すべきことはなく、熊はその巨体と防御力の硬さから優秀ではあるものの、外殻がある四肢以外の場所はそれほど硬くもなく、速度もそれほど優秀ではない。
ただ単純な生物的能力値は高水準だ。単体の強さであれば、恐らく蜘蛛とやりあっても勝つだろう。
ただ様子を見る限りだと一般的な獣の概念に縛られているようだ。普通に臆病で、火を見ると一目散に逃げていく。
生活を懸けた生存に重きを置いた個体だということだ。逆に鬼はまるで蜘蛛のように見境なく襲い掛かってきた。蜘蛛と違うのは、明確な営みを持つことである。あまり統制されているとは言い難いものの、集団で行動することもあれば、声を出し合って意思疎通を図っている様子もある。
明確な寝床を持ち、面白みのない性行為を頻繁に行っている。その繁殖力は凄まじく、ただ個は弱かった。両手両足を持ち、それは人と遜色なく、簡単な棍棒を持つ個体もいる。
小粒ほどの性器を揺らしながら飛び掛かってくる様は、笑えるほど滑稽だった。ただ狼がいたこの場所で種を栄えさせているのだ、どう穿っても勘ぐるものがある。ただの間抜けだけ、というわけではないはずなのだ、そうだとすると。
人間が世界を掌握するように、いつも生態系の頂点に立つのは、圧倒的な数と明確な知性だけだ。力はその次である。
圧倒的な個は、ほとんどの場合圧倒的な数に敗北する。そして狼王は圧倒的な力、圧倒的な数、そして知性の灯を持っていた。
であれば小鬼もまた、少なくとも知性を持たなければ、同じ土俵にすら立てない。あるいは、一切合切の小細工を凌駕する、圧倒的さえ生ぬるいような、それこそ生物的限界を超える、超常的な存在を有しているのであれば、この明確な生存競争に均衡を持たせられるだろう。
ただ馬鹿げた小鬼の姿からは想像がつかなかった。
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