肉を食らい
次に目が覚めると、お馴染みになりつつある
原型を留めていない狼王の死体を中に運び込み、食糧庫となっていたところで解体した。私の牙ではなく炎で出来た短剣で捌いた。それは熱の力によって容易く肉を切り裂くのである。
既にほとんど生の場所はなかった。私が燃やしてしまったからだ。小さく切り分けてからそれを食した。
死んでもなお、淡い電気を帯びていた。少し舌が痺れている。やはり狼は美味しくはなかったけど、その小さな針が刺さるような刺激感は嫌いではなかった。その勇猛さを身に宿した気になった。
私の食欲は無限大であることから、それをすべて食べ切るのに苦労はなく、綺麗に平らげる。そのあとは表の死体群を焼いていく作業をした。空気が濁るように感じたし、疫病などが流行ってもことだ。
私にそれが罹るのかは分からない(恐らくそれすら炎が癒してくれる)、そもそも美的感覚を持つものであれば、家の前に死体を並べて置く趣味など持たないはずだ。一通り綺麗になると、今度は防衛機構の構築に着手した。
とはいえ簡単だ、私自身に炎は効かないのだから、入り口を炎で塞いでしまえばいい。よく使っている薄い膜を外への道の途中に張った。ただし、ひとつだけ無害な道をつくった。そこは暫く進んだ先に粘着性のある熱が地面を奔っている。ただ入れなくするだけでは面白みに欠け、こうすることで食料も手に入る。この洞窟にやってくるものがいるのかは分からない。
ただ鋭利な足を持つ蜘蛛は来るだろう。奴はあらゆる事柄を介さない。ただ無言で得物を狩るだけの存在だ。
その場合は、跡形もなく消し飛ばすだろう。様々なものを食べる決意はしたけど、蜘蛛は不味かった。ひとつ良い点があるとすれば、奴に毒がないことだ。その代わり物理的な戦闘力に特化した。
何か大切なものが欠落しているように感じるのは、可哀そうな奴に免じて言及はしないことにした。あんな奴のことを考える時間が、一体どれほど必要なのか。一秒すらもったいない。
とはいえ、狼王のような特殊個体があの蜘蛛にも存在するのなら、もちろん警戒は必要だけど、その心配すら必要ないような気がする。群れを成すことなく、繁殖よりも殺戮の運命に縛られる奴隷など、いずれ
それくらいには嫌いな生物だった。
殺すのはいい、ここは弱肉強食だ。戦うことを好むのもいい、それが生存につながる。娯楽のない世界だ、私だってそうなるのに時間はかからなかった。ただそこになにもないのが駄目だ。
食料を得る為でもなければ(もちろん食う時は食うけど)楽しんでいるわけでもない、意味が存在しない殺戮に何の価値がある。どれだけ非道でもそこに意味があるのなら、少なくとも死にも意味があることになる。尊ばれるべきは、生物的円環の枠組みの中で確かな意味を得ることである。
それから数日、狼たち残党が襲ってくるばかりだった。根城が乗っ取られているのだから当然奪い返しにくる。
不思議なのは王が死んだというのに、やはり統率は取れていることだ。既に新たな王が誕生しているのかもしれない。
それは他と違いも分からないほど未熟かもしれないけど、一週間経った頃に、突然狼たちがやってこなくなったことから、明確な判断能力が備わっていることが理解できた。あるいは、殺し尽くしたのかと思ったけど、外に出かけると見かけるから、どれだけの数いるんだと厭きれたと同時に、これはやはり計画的な撤退であることを理解した。
奴らは徹底して私と関わらなくなった。今は雌伏の時だと理解したのかもしれない。実際のところは分からないけど、私はそうだといいなと思った。今度は仕掛けられる側になるわけだ。
驕り深くそれを待つとしよう。今度は私が王であり、奴らが挑戦者だ。それから私が狩るのは狼以外の生物になった。いずれまた狩るべき時が来る。それまでは王者の威風を纏うのだ。
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