拠点

 洞窟の中は黒々としている。狼たちは夜目が利き、そして私も同様だ。人としての尊厳を失いつつある今日この頃ではあるけど、一応は生活習慣を人間に近付けている、そういう努力は行っている。


 とはいえ松明を壁に取り付ける技術力はないため(それはきっと人間であった時もである)そのまま壁に炎を取り付けた。等間隔に炎をまき、辺りを照らしていく。私の影が大きくうごめき、荒々しい岩の肌が剥き出しになった。


 少し獣特有の生臭さがする。奴らが清潔さを気にするわけがなかった。


 中は入り組んでいる。色んなところに入り口があるというのは、良い点と悪い点が明確だ。地形が複雑だと土地勘を持つ者が有利になること、逃げ場が多いに越したことはなく、ただ侵入される場所も多いというわけだから、特に私のような独り身には隙となりえる。


 狼たちはたくさんいたから、そうした隙はなかったかもしれない。ゆっくりと眠るためには、様々な撃退装置を発明しなければならない。幸いなことに、すべての道が外に通じているというわけではなく、奥まったところに行き止まりの部屋もあった。そこは狼王の王座だったのかもしれない。


 特別に施されたものがあるわけではないけど、何だかそんな気がした。その脇道にも幾つかの行き止まりがあって、その中のひとつには様々な物が山を成していた。光り物が多いようだ。


 そういうのを集める習性があったのかもしれない。


 宝石が散りばめられた首飾りや指輪、何かの紋章が描かれた長剣、漆黒色の槍、金塊、鉱石、兎に角光っている物が多く、それは一財産を築けそうな品揃えだ。特段金に興味があるわけではないけど、むしろそれらは人の手が加わったものが多く、それすなわち、ここに住んでいた狼たちは人間と接敵したことがある証左に成りえた。もちろん太古の品物の可能性もある、ただの拾い物という線だ。


 しかし、ひと際輝いている首飾りなどは、それほど劣化していないように思えるのだ。私の感覚から言わせてもらえば、センスの欠片もない下品な首飾りだけど、やんごとなき身分の所持品だった可能性もある。


 数がとてつもなく多い奴らは、きっと手広くやっていたのだろう。そろそろ本格的に人の気配を辿ってみるのも面白いかもしれない。


 少し空から眺めただけでは見当たらなかったけど、あるいは、人間の方からこの大森林に足を踏み入れることはあるのだろうか。


 流石にそれは無謀だ。ここには化け物が山ほどいる。


 私はその筆頭ではあるのだけど。


 この中に曰く付きのものがあるのであれば、何者かがそれを取り返しに来る可能性も考えておくべきだ。


 私はまだ一週間しか過ごしていない。人間がここにたどり着かないというのは楽観的だ。私は無意識の内に人間を敵と定めていた。仕方がないことだ、だって私は蛇だもの。


 別の部屋には食料が蓄えられていた。


 腐臭も少しする。私は即刻それを燃やすことにした。こんなところで火を炊くなどと思うかもしれないけど、私の炎は特別性だった。


 それはあらゆる性質を持つのである。そしてあらゆる性質を持たないようにも出来る。勝敗を分けたのはこの炎のおかげだった。あの偉大な王のことを思い出すと、癒えているはずの傷が疼く。血を失っているし、精神的にも酷く疲れていた。私は一通りの確認を終えると、一旦身体を休めることにした。

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