増長
森で過ごし始めてから一週間が経った。
おっかなびっくりと探索を始めていた初期の頃と比べ、私はほとんど森の支配者として君臨していた。
向かうところ敵がいない。私の戦闘能力は留まるところなく、明確に意思を示してからは積極的に狩りを行った。
価値観と言うのは簡単に変わるもので、私は恐怖というものを忘れ、捕食者としての矜持を芽生えさせていた。
いつなんどきでも襲い掛かってくる鋭利な足を持つ蜘蛛には辟易としていたけど、ある程度の意思疎通を図っている帯電する狼は、私を見ると逃げ惑うから、暇つぶしにそれを追いかけまわしては、殺したり殺さなかったりを繰り返して遊んでいる。逃げるしかなかった銀色毛並みの鷹もまた、向かってくる前に燃やした。そう簡単な事だった。
すべては自らが持つ炎の強さが要因だ。
どんな相手でも視認するだけで殺すことが出来た。増長するなというほうが無理な話である。しかし、この森には本当に様々な生物がいた。散々狩りに回ったから、ある程度どういうヒエラルキーになっているのかを理解することが出来た。制空権を得ている生物は兎も角、地上は混とんとしている。
数の多い帯電する狼は、その特異な能力も相まって大きく幅を利かせているようだ。一方鋭利な足を持つ蜘蛛は見境なく
一方巨大な牙をもった猪は弱肉強食の最下層にいる。本人はそれを信じていなさそうだけど(最弱のくせに、とても勇猛だった)やはり知能が低く、足も遅く(最高速はそれなりにありそうだけど、出だしが遅すぎる)五感も鈍く、小回りも利かない事から、この森で生態系を築いていくには不適合に思われた。
ただ美食家としての見解は、もっとも美味しい肉がその猪だった。
それは皆も知るところなのかもしれない。あまり個体数を見ないから、もしかしたら絶滅危惧種に該当している可能性がある。焼いても良し、生でも一番美味しい。私は当初の考えをあらため、美食家ならば生でも食えと思いなおしていた。断じて面倒になったわけではないけど、特段お腹を壊すというようなことも起こらなかったため、その時の気分によっては躊躇わなくなっていた。
刃物のような尻尾の猿、岩のような皮膚の鼠、強烈な光を放つ蝙蝠など、それぞれが生き抜くために得ただろう特異な能力を持った存在が多くいた。猿は誰よりも小回りが利き、手品師のような振る舞いをしながら、いつの間にか切られている。鼠は脚が遅く無防備だけど、殺すのに労力が必要だ。
夜に徘徊してみれば、この蝙蝠がたくさん飛んでいるから、初見の時はその普通の外見に油断して視界を奪われた。その時に少し噛まれたりしたものの、特段傷はつかなかった。
ともあれ、私を害せる存在はどこにもいなかったのだ。
小屋の中で
やはり連携を取る帯電する狼は強く、それをかいくぐるのに難儀した。とはいえ、まだ彼らからは電撃を貰っていない。試しに貰ってみるかと考えたこともあったけど、流石にそれは驕りが過ぎると思いなおした。
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