私は蛇である

 やがて火が消えていくと、少し焦げ付いた肉が残った。


 燃えた葉が付いていて綺麗とは言えないけど、ただ確かに焼けてはいるだろう。私は早速肉に飛び掛かった。


 肉を転がすように口に入れると大きな衝撃が奔った。味わうこともなく、身体の中を転がっていったのである。なんだこれは、食事の楽しみがないではないか。よくよく考えてみれば、木の実もそうだ。味覚がないわけではないようだけど、味わって噛めるようには出来ていないのだ、この身体は。


 そりゃ巨大な卵さえ丸呑みにするような動物なのだから、切り分けた肉片を食ったところで転がっていくのは当然である。


 それに実際のところ特段美味しくもなかった。筋肉質過ぎて油も少なく硬そうだ(私に硬さはあまり関係ないものの)。とはいえ木の実よりは食べた感が出る。あの飢餓きが感も少し楽になった。


 私はそのあとの時間を研鑽けんさんに費やすことにした。


 あまりにも自分を知らなさすぎる。生存の鍵を握るはずの、この不思議な炎の扱い方を色々試さなければならないようだ。


 魔物を燃やした時の白い炎、そして肉を焼いた時は普通の赤い炎だ。違いは明確にある。明らかに白い炎の方が火力が高いことだ。あれは温度が高いとかそういうのではないような気がする。


 そもそもそれは、燃えているというよりは、消滅しているというようなありさまだ。対象の欠片も遺すことはないのである。使い分けられるのなら、使い分けるべきだ。私はまた落ち葉や枝などを対象にして炎を放った。


 やはり噛まなくても炎は出現する。


 そして肝要なのは私の意識、つまるところ炎でしたいことを明確にする必要があった。私は炎に淡く映る自分の姿を眺め、ボンヤリともう戻ることはないのだろうなと思った。


 あまりにもこの身体が馴染み過ぎている。


 私は生まれながらに蛇だったのかもしれない。もしそうだったとして、あるいはそうじゃなかったとして、一体私の何が変わると言うのだろう。何も変わらない。私は蛇だけど、ただ結局のところ自由なのだ。


 外敵を屠る力も持っていた。


 あらゆる能力が高く、私は大きな万能感に支配された。


 私は自問自答し続けた。


 人間である意味、蛇である意味、生きるということ、死ぬということ。成すべきこと、叶えたいこと。


 今の私は空虚だった。段階を踏み、私は私を確立しなければならない。ひとつ確かなことがあるとすれば、やはり蛇であることだ。これを受け入れなければ、何も始まることはなかった。


「私は蛇である」


 声は出なかったけど、そうして言葉にする事によって事実は事実として具現化される。私は戦うことを決意した。


 ゆらゆらと白い炎が輝きを放ち、やがて空に消えた。

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