弱肉強食の世界

 しばらくの間、鬱蒼うっそうとした森の上を遊覧した。


 私はこの時空を飛ぶことに、文字通り舞い上がっていて気付かなかったのだけど、私のようなよく分からん蛇がいるのなら、他のよく分からん動物もいるのでは、と考えるべきだった。


 森の危険性については、恐らくシティ・ガールであったことから分からなくても無理はないものの、すべて事が済んだ後に思ったことは、あまりにも不用心過ぎやしないか、ということである。私はあわや生命の危機に晒された。そうここは、弱肉強食の世界なのだ。


 まず先陣を切ったと思われるのは、たかである。くるくると回りながら空に浮かんでいると、遠くの方から風を切り裂くような音が聞こえてきた。銀色の翼を大きく広げ、一直線に私に目掛けてくる。


 その精悍な顔つきは得物を狙うための鋭利な気配を漂わせ、すぐ傍まで接近されたあとにようやく、私を殺そうとしていることに気が付いた。


 私の中では、鳥という存在がそれほど危険なものではなかったのだ。しかし、よく考えれば獲物である蛇がわざわざ自分の領域に入ってきてくれたのだから、狙わない筈がなかった。


 空に浮かぶ蛇など恰好の的である。私がこの時助かったのは、ひとえに細長い身体のおかげと言える。


 私は咄嗟に身を翻すことでくちばしを躱したのだ。向こうは相当な速度を保っていたおかげで、無理な方向転換が利かなかったようだ。私はすぐさま旋回する銀色毛並みの鷹とは逆の方向に逃げた。


 そして降下して森に入る。私も結構速いのだ。木々の葉の裏に入り込み、隙間から空の様子を伺う。


 銀色毛並みの鷹は私を見失ったようだった。


 枝に身体を巻きつけながら、そっと息をつく。次の瞬間、と目が合った。


 それは私と同じくらいの大きさをしている。赤い目を奔らせ、私の方に向かっていた。複数の足を高速で動かしながら、私のいる木の根元に到達する。私は満を持してした。


 それはずっと蛇をやってきたかのような、見事な威嚇だ。


 ただ対戦相手が恐れ知らずの蜘蛛だっただけだ。一切の怯みもなく、その鋭利な足を木に突き立てて登ってくる。同時に白い糸を吐き出してきた。私は再び翼を広げると、空に逃げる。


 銀色毛並みの鷹は、少なくとも近くには見えなかった。凝りもせず糸を飛ばしてくるものの、途中で勢いを失って落下していく。私は勝ち誇るように見下ろした。それに感情があるのかは知らないけど、暫くの間睨み合っていた。

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