第14話 思い

「袋、開けさせてもらうね…」


袋を開けると手作りの手袋が出てきた。

手袋…。

そして、手紙が添えられていた。


『夏宮和人さん

 あの日あの時あの場所で助けていただきありがとうございます。あの時の約束のお礼です。少し遅くなりごめんなさい。

最初に会った時から和人さんポッケに手を入れてて寒そうでした。なので私が、ずっと作り続けてたお手製の手袋です。青空が見えるようになるまで使ってください。

そして、あの時も5時に駅に来てくださりありがとうございます。和人さんが来てくれなかったら私はどうなっていたかわかりません。そして、来てくれた時は本当に嬉しかったです

                        雪野冬美』


そして、手紙の裏を見ると明らかにこの手紙とは別の日に書かれたであろう震えた文字が書かれていた。


『雪野冬美は夏宮和人さんのことが好きです』


「冬美…ありがとう…」


今出せる精一杯の震える声で寝ている冬美に感謝を伝えた。

俺は、拭っても拭っても涙が止まらなかった。

冬美…。

なんで…。


ずっと寝顔を見ていると今までの思い出が蘇ってきた。


『正直、飛び降りようとした瞬間すごく怖くてやっぱり死にたくないっていう気持ちになりました』


『夕方5時にこの駅で待ってます…』


『夏宮さんは、命の恩人ですから絶対にお礼します』


『ペンギンは空を飛べないけど鳥類だからです』


『雪女ですか。私はそういう都市伝説は信じないです。怖いのが苦手ですから笑』


『和人さん…ありがとうございます。感動しました』


俺は、寝ている冬美の横で号泣してしまった。


「ごめん、本当にごめん…。また明日もくるね」


それから俺は、毎日冬美の病室に通った。


■■■


「冬美、今日も来たよ」


いつも手を握って話しかける。


「冬美は今日は何してた?」


綺麗な寝顔に話しかける。

当然、返事はない。


「じゃあ、また明日来るよ」


■■■


「じゃあ、またな天野」

「ああ、今日も雪野ちゃんのところ?」

「うん」


「冬美、ごめん今日はちょっと遅れた」


■■■


俺は、冬美が倒れて以来ぽっかりと心に穴が空いたような感覚になった。

その穴を埋めたいのか分からないがずっと冬美の病室に通った。

どんなに月日が流れようと…。


■■■


「おはよう冬美、今日は休日だから一日ここに居させて…」


いつものように手を握る。

気のせいかもしれないが、日に日に手が温かくなっているような気がした。


「一緒にゲームセンター行ったよね。覚えてる?ほら冬美が選んだペンギンのぬいぐるみ」


俺は、閉じている瞳にぬいぐるみを見せる。

当然、目は開けてくれないし、口も開いてくれない。

当たり前だが、悲しかった…。


「じゃあまた明日もくるね…じゃあね」


■■■


「冬美、今日も来たよ。今日は学校早上がりだから今来たよ」


今日は、頭を撫でた。


「ほら、冬美がプレゼントしてくれた手袋大事に使ってるよ」


俺は手袋を見せた。

しかし、ずっと美しい寝顔で眠り続けている。

そして、冬美の寝顔を見る度に綺麗だなと毎回思う。


「じゃあ、時間だから行くね」


■■■


俺は、冬美との時間を失って気づいた。


俺にとって生きる意味とは冬美の存在であった事を…。

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