第11話 夢
「ねえ、お兄ちゃん起きて!」
「んん?」
目を開けるとそこは俺の部屋だった。
そして、Tシャツ1枚姿のショートボブの見慣れたしつこいやつがそこにはいた。
そこには妹の雫の姿があった。
雫は、壁掛け時計を指差す。
「お兄ちゃんもう朝の9時だよ。もう本当に起きる遅い!今日映画見る約束じゃん」
「すまん、すまん。10時ぐらいになったら起きるから後ちょっと寝かせて。あと俺の部屋から出てけ」
いつものキンキンとした高い声で起こしてくる。
「10時に起きたら映画間に合わないじゃん!早く起きてよね!」
「へいへい」
俺は適当に返事をしながら雫をあしらう。
起きるかー。
あれ、俺なんかすごく長い夢を見てたような気がする…。
それも、悲しい夢…。
でも、もう覚えてない…。
なんだったのだろう…。
俺は、雫に急かされて起きる。
パジャマから適当なtシャツに着替えて支度をする。
「今日の天気は、1日中晴れでしょう。熱中症対策を忘れずに」
ここんとこ、ずっと晴れだな。
そして、朝ごはんのトーストを食べて準備万端。
「もう準備できたぞ」
「本当に遅いんだから」
呆れて、テレビを見ている雫が立ち上がる。
「行ってきます!」
俺たちは、家を出発する。
極暑で蝉が鳴く中、俺たちは最寄駅まで歩く。
「本当に暑いね」
「ああ、暑すぎる」
ヘロヘロになりながら駅へと到着した。
「まもなく、電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください」
電車内では、2人で座り好きなアーティストの話をした。
「でね、最新のアルバムがもう最高なの!帰ったらお兄ちゃんも聞いてみて」
「分かった。ここまで期待値をあげで最高じゃなかったら俺に100円払え」
「いいよ、絶対お兄ちゃん最高だったーとか言うから!」
俺たちは、こんなどうでもいい話で盛り上がるほど結構仲が良かった。
電車内は、平日の10時台なだけあってがら空きだったそして車窓から見える、鮮やかな景色。
「まもなく、極月、極月です。お出口は左側です」
映画館の最寄駅に到着する。
俺は、これから1日が始まると思うとワクワクした。
電車のドアが開く。
車内から出るとそこは極暑だった。
そして、また暑い中映画館へと歩いた。
「お兄ちゃん、映画楽しみだね!」
雫が胸を躍らせながら話しかけてくる。
「ああ、楽しみだけど暑い!」
映画館に到着すると俺は2人分のチケットを券売機で買った。
「ねえ、お兄ちゃんポップコーンも買ってよ」
また、余計なことを言ってくる。
「いいだろ、なくても。金の無駄だ」
「ムードが出ないじゃん!」
コイツときたらしょうがない。
1度言ったら聞かないからな。
「しょうがない。買ってやるか」
「やったー!」
雫は喜んで飛び跳ねていた。
その様子を見て俺も嬉しくなる。
そして、映画館の椅子に座る。
まだ、長い宣伝をしていた。
「ねえ、この映画どんな映画なんだっけ?」
「なんか、冬の映画。それしか俺も知らない。あ、始まるぞ静かにしろよ」
□□□
映画を見終わり、俺たちはシアターから出た。
「結構面白かったな雫ってお前泣いてんのか」
雫は、すすり泣きをしていた。
「だって、主人公とヒロインが可哀想で…。感情移入しちゃった…」
「確かに可哀想な結末だったな。あ、やばい電車もうすぐだ急ぐぞ」
俺たちは、映画の余韻に浸りながら駅まで急いだ。
駅に着くと、雫が妙なことを言って指差す。
「あの人、なんでこんな猛暑日にコートなんて着てるんだろう」
そこには、小柄で猛暑日にもかかわらずコートを着ている小学校高学年か中学生ぐらいの人がその人の母親らしき人と歩いていた。
「寒がりなんじゃない?」
俺は適当に答える。
「でも、流石に寒がりのレベルを超えてると思う…」
雫は、コートの人をすごく気にしていた。
「そんなことより、早く行こう。電車乗り遅れる」
「うん」
俺たちは、急いで駅のホームへの階段を登った。
「まもなく一番線に電車が参ります」
「早く、雫急げ電車くるぞ」
「お兄ちゃん待って」
雫は、息を切らしながら走って追いかけてくる。
「早く雫」
俺は雫を急かした。
「待っておにぃ、うあああ」
雫は、ホームで足を滑らして線路に落下しそうになっていた。
「雫!」
俺は叫んだ。
その瞬間、そこに居合わせたさっきのコートの人の母親らしき人が落ちそうな雫の手を引っ張るが逆に手を取られて二人とも転落してしまった。
「雫!雫!」
「黄色線の内側までお下がりください」
やばい…。
俺は、慌てて非常停止ボタンを押そうとした瞬間、、、
ガガガン。
鈍い音と共に電車は駅に到着した。
「ただいま、当駅で人身事故が発生しました」
「おい、雫…嘘だろ…」
俺の頭の中は真っ白になった。
「君邪魔だ、ボーッとしてないで下がりなさい」
駅員に注意される。
俺が、雫を殺してしまった…。
雫…。
雫…。
「ただいま、人命救助を行なっております。運転再開、復旧までしばらくお待ちください」
俺は視界が真っ暗になった。
俺が…。
そして、周りがガヤガヤし始めたのが耳で分かった。
「なんだ、急に雪が降ってきたぞ」
「風も強くなってきた!
「吹雪だ」
しばらくするとあたり一面雪で覆われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます