第8話 雪女

「和人さん…。私どうなるんですか…?」


誰かの悲しそうな声…。


■■■


ジリリリ。

目覚まし時計の音で目覚める。

時計の針は9時を指していた。


目覚めの悪い朝だ…。


今日は、冬美の通院に付き添う日か…。


俺、またなんか変な夢見てたな…。

なんか、悲しい夢だった…。

また、いつもの夢か…。

でも、今日はいつもと何か違った。


俺は頬を手で触ると涙の感触があった。


俺、泣いてたのか…。


俺は、布団から起きて出かける支度をする。

服を着替え、顔を洗い、歯を磨くといういつものルーティンをこなす。


「今日は、1日中曇りとなるでしょう」

最近の天気予報は分かりきった天気予報ではなくなっていた。


そして、コートを羽織って出発した。

曇りといえども寒いので俺はポッケに手を入れ駅までへと歩いた。


そして、電車に乗り目的の駅へと到着する。


待ち合わせ場所に到着すると、10分前にも関わらずいつも通り完全防具の冬美が立っていた。


その姿を見て、俺はすかさず声をかけた。


「冬美!ごめん待った?」

「あ、和人さん。全然待ってないですよ…」


俺が話しかけると、冬美はいつもより落ち着いたトーンで返事をする。

全然待ってないと言っているが冬美の性格からすると何十分も前から待っていたのだろう。


「冬美、本当は結構待ったんじゃない?」

「え、あ、いや…ぜんぜん…本当に待ってないです」


冬美はしどろもどろになっていたので本当に結構待ったのだろう。

でも、これ以上詮索するのはやめて本来の趣旨の話を始めた。


「今日は通院の日だよね?」

「はい…」


冬美は、コクリと頷いた。


「じゃあ行こう、案内お願い」

「はい…」


返事をすると、冬美がトボトボと歩き出した。

そのまま冬美に着いていく形で俺たちは目的地へと出発した。


今日は曇りといえど、街はまだ雪だらけで真っ白な光景だった。

そして、まだ寒かった。


「今日も今日とて寒いね」


淡々と歩く冬美に話しかける。


「寒いですね…」


と一言返事。

そのまま、終始無言で歩き続けると大きな建物が見えてきた。


「ここです」


俺たちは病院に到着した。

しかも屋上にはヘリポートがありこの辺りでは結構大きい病院だ。


「ここが冬美が通院している病院か。寒いからさっさと受付済まそう」


病院の、ロビーに入ると受付には窓口がたくさんあり、さすが大病院だと思った。


それと同時に、俺はこの病院になぜか特別な感情が湧き出た。

言葉では言い表せない感情。

懐かしいというか、既視感というか…デジャブ?

なんと言ったらいいかわからない。

でもなぜか不思議な感情になった。


「和人さん?和人さん」


冬美の呼ぶ声で我に返った。


「うん」


俺は情けない返事をする。


「どうしたんですか?ボーッとして」


冬美は不思議そうに聞いてくる。

不思議そうに思うのも無理もない、付き添いの人が病院のロビーで急に棒立ちになるのだから。


「いやちょっと考え事…。そんなことより早く受付済まそう」


俺は、心配させてはいけないと思い強引に話を逸らした。

そして、診察券その他諸々を出して受付を済ませ診察室の前の長椅子で二人並んで座った。

雪野さんは、午前の診療の最後の枠になっており結構な待ち時間だった。


「待ち時間結構あるね」

「いつも、そうなんです。私の病気は特殊で…診察にすごい時間がかかりますから」


そうなのかと納得する自分とやはり重い病気なんだと憐れむ自分がいた。

気を紛らわせようと、俺は天野の雪女の話をした。


「冬美は雪女とか信じる?」

「え?」


冬美は、困惑していた。

困惑するのは無理もない、急に説明も無しに謎な話を始めたからだ。


「いや、なんか俺の友達で天気オタクのやつがいてそいつのじいちゃんが雪女は存在してるとか言うんだって」


俺は半分笑い話にし説明した。

そして、冬美も納得したように答える。


「雪女ですか。私はそういう都市伝説は信じないです。怖いのが苦手ですから笑」


冬美はそう笑って答えた。

俺も信じないように冬美も信じていなかった。

多分信じる方が少数派だろう。


「だよね。おかしな噂も出回るもんだね笑」


しばらく話をし時間が経つと冬美の名前が呼ばれた。


「雪野さん、1番の診察室へどうぞ」


看護師さんの、その声で冬美は診察室へと向かった、そして、その後ろを周りの目を気にしながら着いていった。

心なしか、看護師さんにガン見されているような気がした。


「失礼します」


冬美は扉の前でそういうと奥から「どうぞ」という声が聞こえてくる。

それを合図に診察室へと入る。


「こんにちは、雪野くん」


そこにはメガネをかけた50代ぐらいの白衣を着た先生が座っていた。

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