第6話 ペンギン
「和人さん…和人さん!ありがとう…」
誰かが俺に感謝する声…?
■■■
バン!
「夏宮、寝るな」
先生に、机を教科書で叩かれる。
クスクスと笑い声が聞こえる。
慌てて辺りを見渡せば、みんな黒板と真剣に睨めっこしていた。
授業中か…。
俺、寝てたのか…。
またなんか同じような夢見てたな…。
なんだっけ…。
また、忘れてしまった…。
でも、何故か大切な気がする…。
□□□
「和人、何授業中寝てんだよ笑」
笑いながら、茶化してくるのは昼食中の天野。
焼きそばパンを食べながら茶化される。
「いや気づいたらつい…。ていうかなんか最近変な夢決まって変な夢みるんだよな…」
「変な夢…?」
牛乳をゴクリと飲み干した天野は真剣な顔つきになる。
「それってどんな夢だ?」
「それが、すぐ忘れて全く覚えてない。情報は同じような変な夢を見てた気がするってだけ…」
「なるほど…同じような夢ねー。んーそれって予知夢じゃね」
天野は深く考え込み予知夢という答えを導き出す。
「予知夢?そんなことあるかね」
「まあ、信じ難いけど。というかお前が夢の内容忘れてたら意味ないけどな笑」
「あ、そっか」
勝手に予知夢にされて勝手に正論を言う感じいつもの天野だがコイツは今日テンション高いことを俺は知っている。
「なあなあ、お前昨日の夕焼け見ただろ!?」
ほらやっぱり。
コイツは天気オタクだ。
異常気象になる前は台風とかでも興奮するやつだから今回もと思っていたが案の定だった。
「見たよ、3年ぶりだったな」
「いやー俺はあの感動を一生忘れない!」
でもコイツの言うことはあながち大袈裟な事ではなかった。
適当にテレビをつけるだけでどこのチャンネルも太陽の話題ばかり。
そして、ネットニュースや記事も太陽のことばかりだ。
あの日以来ずっとこんな調子である。
この地球に小さい希望が見えてきたと言う専門家もいるがそれも科学的な根拠はない。
未だにこの寒冷現象の原因は謎である。
しかし、今回の太陽が出た現象で雪は少々小降りになり絶望から小さい光が見えてきたことは確実だった。
「なあ、天野」
「ん?」
天野は、目を丸くして振り向く。
「大体、この異常気象の原因って何?」
「難しいこと聞くねーこの居眠り男」
「うるせ」
天野は、そばで腕を組みじっくりと考え込む。
そして、唐突に語り出した。
「突発的だったから氷河時代の訪れでもなさそうだよな。1番有力な説だが…。だとしたら、もう雪女にこの地球は支配されたということに違いない!」
ダメだコイツ。
テンションが上がってていつも見たいな正常な思考ができてない。
「雪女とかお前そんなの信じてんのか」
「いや、信じてないけど。その昔天候を操れる人たちがいたってじいちゃんから聞いたぞ」
「んなバカな。そんなのただの都市伝説だろ」
「んまあ都市伝説だけどね笑」
俺たちは、笑いながら昼食を終えた。
そして午後の授業も終え下校の準備をする。
しかし、俺はまだ今日タスクが残されていた。
昨日雪野さんと約束した助ける、人生を楽しくさせると言う約束だ。
約束破ったらアイツに怒られそうだからな…。
「ごめん、待った?」
「全然待ってないですよ…」
雪野さんはまた駅前で立って本を読んでいた。
俺は一応10分前に来てるのにもう本読んで待っている。
雪野さんは、一体何分前から待っているのだろうか…。
しかし、昨日明日会おうと約束したものの何をすればいいのか?…
どうすれば楽しませることができるのだろうか…?
『ゲームセンター行きたい!』
そういえばあいつゲーセン大好きだったな…。
「雪野さんはさ、ゲームセンターとか行ったことある?」
「いや、行ったことがないです…」
じゃあもう行くしかない。
「じゃあ、行ってみよう」
「はい」
着いた先は、駅前のゲームセンター。
UFOキャッチャー、コインゲーム、ガチャガチャ色々なゲームがあった。
そして、ゲームセンター特有のあのうるさい音がした。
「ここがゲームセンター」
雪野さんに紹介する。
「ちょっと騒がしいところですね…」
雪野さんはそう返事をした。
まあ、確かに騒がしい場所ではある。
俺は近くにあった両替機で1000札を100円10枚に両替した。
そして、ぬいぐるみなどのUFOキャッチャーの台を見て回る。
すると、雪野さんが急に足を止めた。
雪野さんは、とあるUFOキャッチャーの台をまじまじと見ていた。
その台を見てみるとペンギンのぬいぐるみの台だった。
「この台にする?」
「はい、私ペンギン大好きなので…」
「よし、じゃあ俺と雪野さん交互に挑戦しよう!じゃあ先俺が手本見せるから見てて」
ちょっと先輩面してコイン投入口にさっき両替した100円硬貨を1枚投入する。
よし。
ペンギンの首を挟んでとるか。
アームはペンギンを挟み取れそうになるが直前で落下してしまう。
「まあ、取れなかったけど大体こんな感じ…」
終わって雪野さんの顔を見るとキラキラと目を輝かせていた。
そして、交代して雪野さんがコイン投入口に100円硬貨を投入しゲームを始める。
俺は、その姿を兄貴になったかのように見ていた。
雪野さんが、UFOキャッチャーをしている姿は初めて何かをする子供のように無邪気だった。
『取れそうだよ!』
こんな姿を見ているとアイツを思い出す。
雪野さんは雫と同じように無邪気な目、笑顔をしていた。
気づけば俺はUFOキャッチャーの台ではなくずっと雪野さんの顔を見てしまっていた。
「取れませんでした」
雪野さんは、悲しそうに一言。
「俺に任せて」
次は成功させるぞと、100円硬貨を投入する。
ペンギンの首よりの体を挟んでみるか。
アームを動かす。
アームは、ペンギンの体をしっかりと掴み無事ゲットできた。
「夏宮さん、すごいです!」
と言うのと同時に雪野さんは弱々しそうに手をパーにして俺に差し出す。
「ハイタッチです…」
雪野さんはそう恥ずかしそうに小声で言った。
俺も恥ずかしかったが小さくパンとハイタッチをした。
「はいこれ」
俺は、ペンギンのぬいぐるみを雪野さんに手渡す。
「え…」
「雪野さんが、欲しかったんだからプレゼント」
最初は、遠慮していたが最後は折れてもらってくれた。
「ありがとうございます。一生大切にします」
そう笑顔でペンギンを抱く。
俺は、その姿を見てほっこりともいえないなんともいえない感情になった。
「じゃ駅まで帰ろうか」
「はい!」
ゲームセンター出ると、雪は止んでいた。
「雪止んでるね」
「はい、傘刺さなくて済みます」
雪野さんは笑顔で答える。
俺たちは駅まで歩く。
そして、歩く道中気になる質問をしてみる。
「雪野さんは、なんでそんなペンギン好きなの?」
雪野さんは、ちょっと考え口を開く。
「ペンギンは空を飛べないけど鳥類だからです」
「なんか、深いね笑」
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