第5話 病気
「あのさ…」
俺は、今禁断の質問をしようとしている。
空気読めよ和人…。
ダメだぞ和人…。
こんな質問するべきではなことぐらい俺でも分かる。
「なんで、昨日飛び降りようとしたの?…」
言ってしまった。
聞いてしまった。
何してんだ俺…。
雪野さんは、俺の質問を聞いた後少し間を空け暗い表情で喋り出した。
「私、病気なんです。しかも、治療法が分からない先天性寒冷症と言う不治の病なんです」
「先天性寒冷症?」
聞いたこともない病名だった。
俺は疑問符だらけになったのと少し驚いたがその後も雪野さんは淡々と喋り続けた。
「今こんなに厚ぼったいコートを着てるのも病気のせいで私、生まれつき極端に体温が低くて凍りそうなぐらい体が冷たくて。そして年々体温が下がっていってる状態で…。今は痛みも感じ初めて思うように生活できなくて…。だから辛くてもう嫌だなって。なので…」
雪野さんは喋り終わり一呼吸を置いていた。
「そう、なんだ…。ごめん変なこと聞いて…」
すごく驚いたのと気まずい雰囲気に俺は耐えられなかった。
すごく後悔した。
自分を責めた。
病気なんて俺にはどうしようもない…。
ふと横の雪野さんを見ると、昨日の雪野さんを彷彿させるような表情をしていた。
俺のせいだ…。
また、雪野さんをあいつの影と重ねてしまう…。
なあ、雫俺どうすればいんだ。
雫お前ならどうする…?
俺は、心の中であいつの幻影に語りかける。
『そんなの、助けなきゃダメでしょ!バカ!」
きっと、こんなこと言ってるな…。
うん。
ごめんな情けなくて…。
でも、ありがとう。
俺は、一歩踏み出すよ。
「俺が、あの時みたいに昨日みたいに助けるよ。人生楽しくしてみせるよ」
俺がそう言うと、雪野さんは口角が少し上がっていたが瞳からは涙が頬をつたりボロボロと泣いていた。
「大丈夫…?」
俺は、その様子をじっと見ることしかできなかったがさっきよりも心が晴れていた。
「あ、ありがとうございます…」
雪野さんは、泣きながら一言そう答えた。
そして、俺は黙って小さく頷いた。
しばらくすると、雪雲が少し晴れ、雲の隙間から夕焼けの光が駅舎の中に差し込んできた。
駅舎の中は、夕焼けで茜色に染まり辺りは騒然とした。
そう3年ぶりに太陽が姿を表したのだ。
「ゆ、夕焼け…」
俺たちは、3年ぶりの夕焼けに圧倒された。
しかし、しばらくするとまた雪雲に隠れてしまった。
ほんの一瞬の出来事だった。
俺たちは、2人肩を落とした。
「久しぶりでしたね…」
泣き止んだ、雪野さんは小声で俺にそう囁いた。
「さあ、帰ろうか」
「はい!」
■■■
「まもなく、電車が参ります。黄色線の内側までお下がりください」
私は、帰りの電車に乗る。
車内は、ポツポツと人が乗っていたがなんとか座る席を確保できた。
私は、電車のいすに腰を下ろし車窓からの流れゆく景色を眺める。
と言ってももう外は真っ暗で何も見えなかったがずっと見つめていた。
朝とは真逆で電車内は、白い照明の光で覆われており車窓からの景色は真っ黒。
このコントラストでオセロのようなモノクロの光景。
でも、今は私の視界に入るもの全てに鮮やかな色がついていた。
今日は、本当に胸がドキドキする1日だった。
まさか、昨日助けてくれた人が同じ高校の生徒だったなんて…。
そして、朝奇跡的に再開することができた。
あの時、勇気を出して声をかけてよかった…。
そして、夏宮さんは約束通り駅に来てくれた…。
私が思ってた通りすごく優しい人だった…。
未だに高鳴る鼓動…。
今までずっと神様を恨み続けたけど今だけは、神様がいるなら「ありがとうございます」と言いたい。
さっきの夕焼けのように私の心にも一筋の光が見えた。
本当に経験したことない不思議な感情だ…。
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