第4話 感謝
俺は、息を呑み彼女へと近づく。
すると、彼女は俺に気づきペコっと会釈をする。
「ごめん、遅くなって…」
俺は、開口一番謝罪した。
「いえいえ、5時ちょうどですよ。それに本当に来てくれたんですね」
彼女は、ちょっと口角が上がっていた。
「昨日の君を思い出してそして、君が気になって走ってきた」
多少息が上がりつつも返事をした。
そして、彼女が本をバッグに入れ話し始めた。
「私、ずっと昨日のお礼と謝罪をしたくて…。そしたら、朝同じ制服を着たあなたが駅にいたので…。私、雪野冬美って名前です。よろしくお願いします」
彼女は、自分の名前を名乗るとご丁寧に頭まで下げた。
そして、俺もつられて名乗る。
「夏宮和人です。よろしく」
「夏宮さんっていうんですね。夏宮さん、昨日は本当にありがとうございます。そして、すみませんでした…」
彼女は、ニット帽が脱げそうになるぐらい深々とまた頭を下げた。
頭を下げたままずっと動かない雪野さん。
俺は、どう反応すれば良いか分からなかった。
頭に血が上るよ。
反省したならいいよ。
ベストのチョイスはなんだ…。
頭の中に色々な選択肢が駆け巡った。
「と、とりあえず頭上げて。そんなにかしこまらなくていいから」
多分ベストな言葉をチョイスしたと思う。
俺がそう言うと、雪野さんは、ゆっくりと頭を上げた。
頭を上げると、長い髪がボサボサになっておりニット帽も少しずれていた。
そして、沈黙が5秒ぐらい続く。
「あの…」
「あの…」
喋るタイミングが被ってしまった。
気まずい…。
「どうぞ…」
雪野さんは静かに譲ってくれた。
「立ち話もなんだし、そこのベンチに座らない?」
「そうですね…」
俺たちは、駅舎の中にあったちょっと年季が入っているベンチに腰掛けた。
また沈黙が続く。
「俺、ちょっと飲み物買ってくるよ」
「はい…」
俺は、駅舎の外の自動販売機に向かう。
うぅ寒い。
やっぱり外は寒いな。
自販機には、ホットコーヒやホットココアあったかい飲み物がたくさん売っている。
反対に、冷たい飲み物は一段分しか販売されていなかった。
やっぱりあったかい飲み物だよな…。
俺は、ホットココアを2つ買いベンチへと戻る。
「はい、ココアでよかったかな?…」
「え、いや私は大丈夫です…」
遠慮する雪野さん。
「遠慮しなくて大丈夫だから」
「本当にいいんですか?ありがとうございます」
ココアを手渡すと、雪野さんは手袋越しに缶で手を温めていた。
それを見て、俺もホット缶で手を温める。
雪野さんは、今日1番の笑顔でココアを見つめていた。
『うわーありがとう!』
どうしても、雪野さんをあいつの影と重ねてしまう…。
「夏宮さんどうしたんですか?ボーッと…」
「い、いや何もないよ…」
雪野さんにまで心配をかけてしまった…。
やっぱりダメだ俺は…。
「夏宮さん、美味しいです。ありがとうございます」
「よかった」
「あの、夏宮さん」
雪野さんは、改まってこっちを向いた。
「どうしたの?」
「本当にありがとうございます。私、あの瞬間死ぬのが本当に怖かったです。なので夏宮さんには本当に感謝してます」
改めての感謝の言葉だった。
「俺も咄嗟だったからよくわかんなかったけど、雪野さんが無事ならそれでよかったよ…」
「なので、時間かかると思うんですけどお礼をさせてください」
雪野さんは、真剣な目つきで俺を見てくる。
お礼か…。
「いや、俺は…そんな。大丈夫だよ」
「夏宮さんは、命の恩人ですから絶対にお礼します」
遠慮しがちな雪野さんだかお礼のことに関しては頑固な様子だった。
命の恩人か…。
「じゃあ、楽しみにしてるね」
俺は一応そう答える。
「はい」
雪野さんは笑顔で返事をした。
その顔は昨日の雪野さんとはまるで別人のような顔だった。
一体何が彼女をここまで追い詰めていたのだろうか…。
そして、なぜ今日はこんなにも笑顔なのだろうか…。
俺は、不思議でならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます