第3話 勇気
「あ、昨日の…。昨日は大丈夫だった?」
俺は、話しかけるつもりはなかったが思わず話かけてしまった。
彼女も不意打ちだったようで数秒固まる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「はい、おかげさまで大丈夫でした」
「そう、よかった。また、あんな真似しないでね」
俺は、そう一言返事をし改札を通ろうとした。
やはり1個下の年代のような女性と話すときは胸が苦しくなる。
早く立ち去りたかった。
「待ってください!」
その瞬間後ろ髪を引かれるような声が聞こえた。
振り返るとさっき会話をした少女が、その病弱そうな体で握り拳をして震えながらこっちを弱々しい目つきで見ていた。
相当緊張しているのだろうか…?
俺は、ゆっくりと少女の元へと戻った。
すると、さっきの声とは裏腹に小さなか細い声で
「夕方5時にこの駅で待ってます…」
そう彼女は一言。
俺は小さく頷き足早に改札を出て学校へと向かった。
■■■
黒板にチョークで字を書く音が、カツカツと鳴り響く。
黒板には、「Boys be ambitious」と書かれていた。
「えーこの言葉はクラーク博士の言葉として世に知れ渡っています」
先生が、一生懸命説明している中俺は上の空で窓の外を見ながら考え事をしていた。
あの子、さっき極月高校の制服着てたよな…。
17歳って言ってたし同じ高校の2年生か…。
放課後、駅に行くべきだろうか…。
キーンコーンカーンコーン
6限の終わりのチャイムが鳴る。
やっと1日から解放された瞬間。
背伸びをしていい気分…とまではいかなかった。
今日は、まだタスクが残っている…。
「おーい、和人」
後ろから聞き覚えのある声。
天野だった。
「なんだよ…」
「いや、帰ろうぜって言おうとしたけど…何か考え事でもしてる?」
天野が心配そうに俺を見てくる。
「いや、何にも…」
俺は、平然を装って答える。
「そうか、んじゃ帰るか。ってわけにはいかないな。和人何かあっただろ」
天野にはお見通しなようだ。
俺は、昨日や今日あったことを天野に話した。
□□□
「ええ、マジで!?んじゃお前5時に極月駅行くのか?」
「行かない…俺は行けない」
俺は、オーバーリアクションの天野と温度差が激しい返事をする。
「え!?何でだよ。その子可哀想だろ」
「なんでもだ」
「じゃあ。また俺ん家来るの?」
「そっちも行かない。さあ帰ろう」
俺は、机の横にかけてあるバッグを持ち強引に天野の背中を押して教室を後にする。
昇降口で靴を履き替え、天野と一緒に帰路に着いた。
そして、天野の家の前まで着く。
天野の家は、学校から近く同じ町にある。
なので、頻繁に立ち寄る。というかほぼ毎日立ち寄るそして夜までゲームをする。
しかし、今日は違う。
「じゃあ、天野じゃあな」
「おい待てよ、和人…」
天野が真剣な面持ちで引き止める。
「ん?」
「お前、心のリハビリ中だと思うけど頑張れよ」
「ん」
天野が帰り1人の下校となった。
俺には、さっきのあいつの言葉の真意が理解できた。
時間は16時50分。
走れば間に合う。
俺は、雪で滑りやすい道をひたすら走った。
雪混じりの向かい風が身体中に襲ってくる。
寒くて、冷たかったがひたすら急いだ。
駅に着いたのと同時に5時のチャイムが鳴る。
街灯の光がつき始め辺りはもう薄暗い。
「はぁはぁ。着いた」
俺は荒くなった息を整え駅舎へと入る。
入ると、今朝の少女がコートやマフラー完全防備で本を読みながら立っていた。
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