第2話 挟撃 同年同月22日
上杉朝定は千佳との婚儀を無事終えた。北条攻めの準備を整えた扇谷上杉家は5月22日、今川との約定通り挙兵の準備に入った。
諸将を招集するため下総からの諸将は昨日既に出陣している。太田資顕と三戸義宣は房総の南北に備えさせ、高城胤吉と三戸義宣の子、三戸景道に兵を率いさせている。もちろん水軍も引き連れさせ、水軍は江戸城の北、石浜城に集結させる。
早朝、武蔵でも招集をかけ、蕨城まで集結するよう手旗信号を送る。難波田広儀は難波田城で奇襲に備えさせている。蕨城で水軍以外を纏め、志村城と江戸城を睨む構えだ。
もちろん私、上杉朝定や足利義勝も出陣する。立派な甲冑に身を包み、兵站も運送できるよう用意させている。準備は万端だ。
そうこうしていると千佳が奥の間からやってきた。
千佳「…五郎殿、戦に行かれるのですか?」
「ええ、行ってまいります」
千佳「…どうかご無事で…」
「心配してもらって、嬉しいですよ。北条を武蔵から追いやってきます」
足利義勝「おーい、吾は準備出来たぞー!」
「今良いところなんだから待たれよー!
…では、行ってまいります」
千佳「ご武運を」
頷いて出立する。…大体、戦に向かうまでが一番緊張するものだ。
「我らはこれより蕨城に向かい、味方と合流して江戸城を落とし北条を相模に追い落とす!!では、出陣せよ!」
有山砦や観音寺砦、その他集まった兵を吸収しつつ、昼前に蕨城に着いた。領内から続々と兵が集い、既に城に入りきれない。周囲に陣を張らせ、城に入る。諸将は到着しているようだ、このまま軍議を開き、方針を固めるとしよう。
「皆、集まったか?」
小姓「はっ、招集された方は…水軍を指揮し石浜城に陣取っている上田朝直殿以外は揃っております」
「よし、では広間に集めてくれ」
足利義勝「…どうやらもう集まっているようだぞ、吾らも参ろう」
広間に入ると、諸将が座っていた。こころなしか過去の軍議より堂々とした雰囲気を感じる。やはり、久しぶりの出陣故か。或いは江戸城奪還が悲願というのもあるが…。
「皆、待たせたな。
…これより軍議を始めようか」
難波田憲重「此度の目標は江戸城攻略…で、宜しいですかな」
「うむ、その前に志村城を落とさねばなるまいが…。
最終目標は北条を武蔵から叩き出すことだ。世田谷方面まで進出出来れば最高だな。
こちらの陣容はどうなっている?」
小姓「はっ、以下の通りでございます」
陣容
蕨城
上杉朝定・足利義勝本隊 6000
難波田隊 4000
渋川義基隊 3000
太田資正隊 1500
三戸景道隊 1500
臼井景胤隊 1000
高城胤吉隊 500
萩野谷全隆隊 500
計 1万8000
石浜城
上田朝直隊 2500
上杉軍麾下水軍 2500
計 5000
総勢2万3000
「なるほど…かなり集まったな」
渋川「長陣に備え小荷駄も集めた故、かつてない大軍ですな」
臼井「かつての小弓御所以上の規模、北条より江戸城を奪えそうですなあ」
太田「小弓御所は本拠に近い下総の国府台で大敗していたではないか、油断は禁物」
難波田広定「しかし、今川も北条に攻めるのでしょう。まず志村城を落とし、敵の士気を落としてしまえばよいかと」
「左様。此度はまず志村城を落とす。江戸城より後詰が来れぬよう石浜城の上田隊と水軍に江戸城周辺を抑えてもらう。志村城が落ち次第渋川隊は品川湊を押さえに行け、湊を焼かぬよう気をつけよ。
志村城を落とした後江戸城を包囲し、北条の出方をみる。
…北条の動きは掴めているか?」
小姓「はっ、玉縄城や小机城に兵を集めているようですが挙兵してはおりませぬ」
「此方の動きを待っているのか…、取り敢えずは気にせず攻めていくか。
江戸城包囲は北方を石浜城の上田朝直
西方は難波田隊、渋川隊
日比谷の入江は水軍衆
あとは砂州で出来ている
萩野谷全隆「へい、少しづつ運ばせておりやす」
「うむ、では全て砦に運ぶようにせよ」
高城胤吉「御屋形様、仕掛けとはいかなるもので?」
「鎖、だ。防鎖として入江に沈め、味方の水軍が通行する時以外は巻き上げて入江を封鎖する。木で作った防材でも小早舟は防げようが関船に壊される。鉄の鎖ならそうは壊せまい」
三戸景道「1500で半島にいては江戸城より奇襲され、我ら三戸隊が壊滅してしまうのでは…」
「城にはどんなに多くても5000しかおらぬ筈、難波田と渋川に張り付かせれば1500が詰める砦を落とすことは出来ぬよ。北条の援軍が相模より来ることのほうが問題…。
残りの太田隊、萩野谷隊は本隊と共に志村城に入れ。北条の援軍がどれほどか分からぬが備えるぞ」
足利義勝「…江戸城は包囲したまま、総攻めはせぬのか?」
江戸城は徳川家康が作ったものと比べれば小規模だが…この時代の城としては堅い。今後北条の援軍と戦うことも考え、力攻めは避けたい。
「江戸城は包囲し、兵糧攻めに致そうかとな…では、この方針に異論は無いか?」
難波田広定「異論はありませぬが、江戸城を落とすのに時間が掛かりませぬか?」
「時間が掛かるかは分からぬ。兵糧を補給させずに待ち、万全の状態で攻めれば降伏してくる可能性もある。ともあれ、北条の兵を引き付けねば今川が困ってしまうからな」
そもそも、新兵器が揃っていれば簡単に城を奪えるんだが…。出来ていないものはしょうがない。
「では他には無いな?さっさと志村城を落とし、江戸城を包囲するぞ!!」
「「応!!!」」
蕨城を立った扇谷上杉軍は、渡河して志村城に迫る。昼下がりには到着と同時に総攻めが始まった。城兵は1500ほどらしい。上田朝直は江戸城を牽制していると伝令が入った。
流石に1万8000の大軍に攻められるのは厳しいものがある。善戦していたようだが兵が次々に逃げていく。
「追撃はせんで良い!!どうせ兵糧攻めするからな、放っておけ」
逃げる兵を追撃しないのを見て次々に脱走していく。夕方になる前に志村城は落ちた。
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江戸城には亡き北条綱高の代わりに
兄氏康からは扇谷上杉が動くかもしれないから注意しておくよう書状が届いており、備えはしていた。
しかし、唐突に志村城が攻められているとの伝令が入った。
北条氏尭「敵の数は?」
伝令「およそ1万7、8000かと」
北条氏尭「…今すぐ志村城に救援に行くべきか?」
遠山綱景「こちらの兵は4500ほど、兵数が足りない上、石浜城の兵や敵の水軍が牽制のように接近しております。動いては負け、出撃はなりませぬ」
氏尭「……致し方あるまい。すぐに志村城の兵に江戸城に逃げるように伝えよ。江戸城ならいかに大軍が相手でも援軍が来るまで耐えられるはず」
伝令「はっ」
氏尭「…兵糧はどれほどある?」
遠山「…約3ヶ月分かと」
氏尭「ならば問題ないな。必ずや兄上達が援軍として駆けつけてくれる。それまで耐えようぞ」
夕日と共に、志村城が敵の手に落ちていく。目と鼻の先に見たことのない大軍が押し寄せていた。
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