第13話 蝗害対策 同年閏6月4日
堤防の造成が功をなしたのか、洪水の被害は利根川流域と武蔵府中に留まった。荒川は下流を除きほとんど水害が発生しなかった。
利根川はもうどうしようもない。一応堤防や遊水地で葛西城周辺はどうにか被害は抑えたが、その他耕地は被害を受けた。家屋は流され、舟も多くが流された。せめて関宿城あたりから堤防を作ればもう少しマシな被害になったかもしれないが…。
領地全体の耕地の内2割が被害を受けたと考えると流石に痛手だ…。
多摩川北部の村々には高台に仮設の住居を用意したり、米を配給したりと支援した。死人の数は分からないが、飢餓で死なれるのは困る。最悪疫病の元にもなるのだ。
聞くところによると、周辺諸国はやはり洪水の被害が多かったようだ。そう考えると水害の多い武蔵での被害軽減に成功したのは重畳かもしれない。
…だがしかし、これはまだ序章に過ぎない。歴史通りならば、この先蝗害が発生するはずだ。
蝗害とは、バッタが大量に増殖して起こる恐ろしい災害だ。作物はもちろん、ほぼ全ての草や紙に綿製品、ひいては共食いまで起こす。当然蝗害が起きると農作物は全滅する。旧約聖書の十の災いに数えられるほどの凶悪さだ。
日本ではあまり起きないとはいえ殺虫剤の無いこの時代、起こってしまっては大変だ。大量発生してからでは遅いため、すぐに動いた。
関東地方で蝗害が起こるとすればトノサマバッタだ。つまり、トノサマバッタを間引きすればよい。トノサマバッタは年に2度産卵する。最初の産卵は初夏なので、水害が落ち着いてすぐに草原や河川敷に人手を動員してバッタ釣りを毎日行った。
バッタ釣りは、竿の先に糸を垂らし、黒い棒を結ぶとメスと勘違いしたオスが釣れるというものだ。単純に捕まえようとするより効率よく捕まえられる。
そして、初夏が過ぎ産卵期が終わった後はまた草原や河川敷に行き、土の中の卵塊を掘り出す。このスポンジ状の卵塊を集め、処分する。
後はまた秋に同じことをすれば来年も大量発生は起きない。これでトノサマバッタ対策は完了だ。
そして、もう一つ蝗害では無いが農作物に被害を出す害虫がいる。ウンカだ。古来日本ではウンカの被害も蝗害と呼んでいた。
ウンカ対策は実はそこまで難しくない。水田にほんの少量の鯨油を張るだけでいい。江戸時代に広まった方法だが、それだけでウンカを叩き落とし駆除できる。今回鯨油は手に入らなかったので魚油で代用した。
このまま蝗害が起きなければ単純計算で収量は例年の8割程だ。対策が上手くいくよう、祈る他無い。
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