第12話 降雨 天文8(1539)年4月20日
天文7年2月に北条と和睦してから小競り合い程度の戦はあったが、他の大名も含め大規模な戦闘は起きなかった。関東の情勢は安定はしてはいないが、どうにか均衡を保っている。
年が変わって天文8年(1539)、いよいよ飢饉の起きる前年になった。前世の記憶で飢饉が起こることは予期しているが、いつ何処で起きるかまでは分からない。
どうやら今年に大雨・洪水が起き蝗害が発生、来年に再度大雨・洪水に加え疫病が蔓延したことが原因らしいことはわかっているので、まずは大雨対策に重点を置いていたのだが…。
──雨が、降っている。ただの雨ではなく、大雨だ。かれこれ4日は降り続けている。
当初はしとしととした雨で、菜種梅雨や走り梅雨かと思われたのだが…これは明らかに様子がおかしい。
これは洪水の前段階か?だとすればもう打てる手は少ないが…動いておくか。
「…この雨により、もしかすると洪水が起こるやもしれぬ。
各諸将に水害に備えるように伝えよ。米俵はすぐさま城の本丸など高地に集めさせよ」
小姓「はっ」
「川沿いと海沿いの城や湊には舟をしっかり係留し直すようにせよ。
各村々に水害が起こり次第伝令し、すぐさま高台の避難所に避難するようにも命じよ」
小姓「ははっ」
堤防は荒川の全域と多摩川の上流、利根川の西部にはおおよそ建設できている。放水路や遊水地もいくつか用意した。飢饉を見越し、かなりの額を投じた。これで洪水の被害が減ればいいが…。
雨はもはや豪雨に変わっていた。灌漑用の水路では普段では見られない程に水位が上がっているのが見て取れる。
…暫くして、急ぎの伝令が入った。
「…何があった?」
伝令「御屋形様、急ぎ申し上げます!!多摩川北で浸水が発生!!武蔵府中付近で氾濫しています!!」
……まずいことになった。想定こそしていたが、こんなにも早く洪水が発生するとは…。
二重堤防で領地を守る方法も模索したが、どうにも予算も工期も足りなかった。
…もうどうしようもないな、こればかりは。
「…急ぎ村民を避難させよ!」
伝令「はっ!」
この豪雨で、松明での信号は当然のこと手旗信号なども全くもって使い物にならない。どうにか伝令を送り出したが、無事に伝達出来たかも分からない。少なくとも、雨が止むまでは何も出来ない…。
……こうなってしまってはもはや打つ手はない。自然の猛威に対して、中世の人類など相手にならない。そのことが身に沁みてよく分かった。
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