第4話 椎津の戦い 同年同月11日、12日
早朝より国府台を立ち、小弓城まで向かう。三戸義宣からの書状によると、真里谷水軍は里見水軍が木更津より北に来ないことを知り伝えて来たという。
やはり、里見義堯は動かない──というより、動く意味がない。せいぜい土岐為頼を狙う位だろう。
また、北条の軍が大勢で向かっているらしい。北条水軍の舟に乗り木更津まで上陸すると。
面白いほど読み通りだが、兵数によっては戦いにすらならない。どの程度かはまだわからないか…。
真里谷武田は酒井と睨み合いをしているが、土気城に入って間もない酒井単独では山城の真里谷城は落とせないだろう。
他の武田一族に城を任せ土岐為頼と連携するように書状を送り、武田信応に兵を出すよう連絡してある。
昼過ぎ、6時間ほどかけてようやく上総に到着した。三戸義宣と会い、軍議を開く。
三戸義宣「御屋形様、この戦は速さが肝要、北条が上陸する前に里見を叩くべきかと」
「いいや、里見は刺激せずともよい…上陸した軍のみ狙うぞ」
渋川義基「やはり、里見は己の利益のみ見据えておるようですからな」
三戸義宣「であれば、上陸したところを叩くと?」
「…そうしたいのは山々なのだが、敵の戦力が分からぬ」
三戸義宣「であれば、間もなくわかるでしょう…上陸さえすれば兵数はわかります」
「では南に進軍し、先に椎津城に入り…決戦地を探しつつ敵の出方を伺う…これで良いな?」
「「はっ」」
このまま南に進軍し、4時間程して椎津城に着いた。
ここ椎津城は元々真里谷武田の城、武田信隆が到着する前で助かった。もし奪われていたら厄介だったな…最悪上総に拠点を作られおしまいだ。
程なくして、北条軍が上陸したと伝令が入った。南へ海沿いに
やはり椎津城を奪うつもりだったのだろうな。
「…渋川右兵衛、三戸駿河守よ。…ここは決戦するべきか、否か」
三戸「武田三河守様を待ちましょう…1000引き連れてこちらへ参られるようです、ここ椎津の兵を合わせ1500、我らと合わせて7000となり優位に戦えましょう」
渋川「我らだけでも数は勝っておる、このまま突撃してもよいのではないか?」
「ふむ…伝令によれば、相模や武蔵の北条軍に動きはない…おそらく氏康めは房総の結果を待っておるな。ならば完膚なきまでに叩き潰すまで、武田三河守殿を待つぞ──夜襲や朝駆けには注意せよ」
伝令「御報告!上陸した敵は北条綱高と武田信隆との由!」
「なるほどな、私に敗けたのがよほど応えたのだろうな…明日には捻り潰してくれよう」
夕方になり、武田信応が着陣した。北条軍は椎津城から
一晩明け、状況を確認する。襲撃はまるでなかった。慣れない地での奇襲は避けたということだろうか。
夜明けと共に城を出、椎津城の南に布陣して決戦に望む。まだ北条軍は一切動こうとはしない。
…里見軍が援軍に来ると踏んでいるんだろうか…?
「矢文でも送るか」
書状を書き、矢文で送る。内容は簡単だ。
『里見は御味方を見殺しにして上総東部を狙っている。北条軍は武田信隆の身柄を引き渡し小田原へ逃げ帰るようにおすすめする。』という挑発だ。
別に嘘はついていないが、これを飲める武将はそうはいない。──まして敗戦の恥辱を晴らさんと意気込む将ならば。
北条軍が前進してきた。
こちらは
「敵が来る!我らは武田信隆の隊を食い破るぞ!」
2つの軍が衝突した。武田信隆隊は2000ほど、こちらの4000の兵に完全に押し負けている。逆に東側は同数のはずだが北条綱高が押していた。流石は赤備えの北条綱高だな。
1時間程して、武田信隆隊が敗走した。すぐさま三戸に追撃を命じ、私の隊は北条綱高隊の側面を突く。
伝令「御屋形様!!北方より兵が500、こちらに向かっております!!」
「…誰だ!?」
伝令「あの旗は臼井のもの!臼井景胤殿の兵かと!」
千葉と対峙していたはずなのになぜ?…まあいい、ここは助かる。
「こちらの右方より敵左翼を突くように伝えてくれ!」
伝令「はっ!」
臼井景胤の兵が左翼を突き、私の隊が右翼を蹴散らし始めた。猛将北条綱高の突撃で渋川や武田信応らは厳しい戦いだったろうが、この戦いもここまでだろうな…。
暫くして、北条軍が潰走し始めた。包囲によって隊列が完全に瓦解している。殲滅されていき、数多の北条兵が討ち取られる。
「追い討ちせよ!海岸まででやめるように、水軍も警戒せよ!」
敵兵は散り散りになってゆく。決戦はこちらの完勝であった。
本陣に北条綱高と武田信隆の首がすぐに届けられた。北条綱高は先の負傷もあり逃げ切れなかったのか…。何はともあれ、敵将を二人も討ち取れるとは、とても上手くいったものだ。
諸将を集め、戦功を労うこととする。
「臼井殿!よくぞここまで参られたな!」
臼井景胤「実は、北条幻庵が千葉家を離れたことにより千葉の士気が完全に落ち、高城胤吉が太田信濃守殿に投降したのです。それ故、某がこちらに出陣した次第。
…実は、水軍が些か上陸しておった故、撃破して参りました。北条水軍の舟は海岸にあります故、それが証明になりまする」
な、なるほど…今回は運に助けられたな。まさか、海兵隊の如く後方に進出してくるとは…。北条綱高が猪武者なのはともかく、突撃してきたのはそういうことなのだな。…かなり危なかった…。
それに、高城胤吉が投降したとなると小金と根木内の統治がしやすくなるな。千葉も丸裸だ、下総もほぼ手中にしたようなものだな。
「…左様でござるか、かたじけない。ささやかではあるが後ほど褒賞させて頂こう。所領の増加と官途で良いですかな?」
臼井「はっ、ありがたき幸せ」
…何の官途が良いかなぁ、悩ましいな。
「渋川右兵衛もよう耐えた。」
渋川「はっ…追加の褒賞を頂きたく」
「あまり急かすな…。んー、確か城と守護代だったよな、鷺沼城を与えよう、三戸駿河守には亥鼻城と小弓城を与える…今回は快勝だった故な、大盤振る舞いしてやろう」
渋川・三戸「ありがたき幸せ」
「満足したようで何より…武田三河守殿は真里谷城とここ椎津城の安堵、上総守護代でよろしいかな?」
武田信応「そ、それだけに?」
「此度小弓城より国王丸君を奪われたは武田殿の過失。領地の安堵に加え褒賞まであるのです、異論がありますかな?」
武田信応「……ありませぬ…」
「代わりに、里見よりは所領を奪っても構わぬ、我ら扇谷上杉は援軍を出しますぞ…戦功によっては上総守護にもなれましょうな?まあ、武田殿次第ですが……」
「──皆!よく戦い、かの北条一門の者の首を討ち取ってくれた!!これで上総は安泰じゃ!!勝鬨を挙げよ!!」
「「えい!!えい!!応!!!」」
…この戦勝によって、房総の勢力は扇谷上杉方に大きく傾いた。不敗の大名として、名も広がる。
──しかし、北条家の本当の恐ろしさを、上杉朝定は未だ知り得ない。
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