第30話 独占欲

 全然、江洲って好みじゃなかったんだけどなぁ……。

 気が付いたら、この通り。

 江洲以外の男子はお断りしますだよ。


 存在感が空気だったというのも、今思うとポイントだったと思う。

 雰囲気が苦手だなって感じる人ってやっぱり苦手なままの方が多いしさ。

 

 その点、江洲には苦手も好きも無かったからね。

 だって、空気だし。


 もうちょっとカッコよく服とか髪とかあたしがさせれば、うん、良い感じに……。

 ――って、思うのは学校で一緒に居ても、違和感ないでしょ?って意識が働いたんだと思う。

 学校で一緒に江洲の隣に居たいって……江洲の隣はあたしの指定席だよって。


 でも、江洲があか抜けてカッコよくなったらライバルができちゃう?

 んー、悩ましい。


 何だろう、気付いたら恋に変わってました的なこれは。

 あたしらしくないなぁ……って我ながら思っちゃうけど、気付いてしまうとどうしようもなくて。


 ガッコ以外の、制服以外の江洲を見てからでいっか。

 今の時間は少なくとも、独り占めだし、そもそも『あたし専用』だしね。


「もちろん、苛めるよ」

 即答で言ってくる言葉が大好き。

『苛めてあげる』ってオレ様でもなく、恩着せがましくもなくて、ただ『苛めるよ』って言葉が好き。

 安心しちゃう。


 だから――

「……あたしだけ?」

 こんな事も聞けちゃう。


「もちろん。枝務真鈴だけ」

 うひゃーっ……。

 こいつ意外とタラシじゃん。

 ここでフルネームとか、ダメだぁ……。

 蕩ける、蕩けちゃう。

 蕩けてる……。


「あたしも……江洲出夢だけに……だからね」

 こんな状況で何をラブコメしてるんだかぁーって思うけど、あたしの独占欲と被独占欲をなめんなよー、状態に突入しちゃった。


 チラっと上目遣いで江洲の顔を見ると……。

 うわっ……照れてる。

 あの江洲が?

 やぁぁぁんっ……ギャップがーっ。

 江洲が可愛い。


 キュンキュンする。

 絶対にあたしの方が照れるし、恥ずかしい事を言ってるのにさぁ。

 でもって、江洲に照れられると、つられてあたしも照れてしまう。


 前髪を指先で恥じらうように弄って、太腿をモゾモゾって動かして、顔はすっかり熱を帯びてて熱くて、瞳を潤ませて……。

 俯瞰して今の自分を見たら、きっと『誰?』って、なってる仕草や表情のはず。


 意識しちゃうと、やっぱりこうなっちゃうよね。

 この枝務真鈴がすっかり乙女モードに。

 乙女モードにさせる江洲を、やっぱり……独り占めしたいっ。


 あたしが照れたのが分かったのか、お尻を撫でることも無く、不意打ちでキュっとお尻をつねってくるんだから、もうっ……。


 声が出ちゃうの知ってるくせに。

 いぢわるっ。


「あぁっんっ」

 甘い声を出して、睨む事もなく、むしろ瞳をうるっとさせて、頬を更に赤く染めて、恥じらいながらの『もっと』モード。


「……もうっ……ホントにいぢわるなんだからぁ……」

 あたしのこの甘い声はどこから出てるんだろうって思うくらいの声に、自分でも驚いちゃうけど仕方がないんだよね。


 江洲に意地悪されればされる程、甘くなっていく声。

 もっとって、意地悪されたがってる声。


 ホントにガッコでこんなモードに突入したら危険すぎる。

 けど……今のあたしはガッコでコッソリと江洲に意地悪されたい。

 意地悪されて、蕩けさせられたいって思うのは、当然すぎる事なんだよね――。

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