第25話 意識してしまう
駅まで向かう時に、あたしはワザと江洲から少し離れた。
一緒に手を繋いでとか、腕を組んでとかはしない。
江洲とあたしが、そうやって歩いているのを他の人に見られなくないって理由じゃなくて。
全ては学校での振る舞いっていうか、距離感。
こっちの方が自然でしょ?
――っていうのもあるけど、学校通りなんだけど、今は違うっていうか……
その……あたしの秘密を知られてる江洲が近くにいて、一緒の方向に向かって歩いてるって、凄くドキドキするから。
手を繋いだりしちゃったら、何て言うかさ……。
違うんだよね。
周りから見ても、仲が良い高校生のカップルって見られちゃうでしょ?
あくまで、あたしの方が立場は上。
江洲は『充電器』。
充電器に翻弄されている、あたしっていうのが、刺激的だから、これでいいの。
普段では絶対にしないけど、スカートの裾を手でしっかりと押さえて、カバンを抱えるようにして持って胸を隠して。
そして、小さい歩幅で慎重に歩く。
ふはぁ……。
これだけでも、すっごくドキドキしてイケナイ感が増幅していって、興奮してくるのに、少し離れてあたしの歩幅に合わせて歩く江洲にはバレてるって事に、期待感が湧いてきてドキドキが激しくなる。
カバンをギュっと強く抱えると、突起を押し付ける事になって
「あっ……んぅぅっ」
って声が漏れちゃう。
咄嗟に俯いて、髪の毛で表情を隠すけど、江洲にはそれもバレバレだって……聞こえてるって意識すると、更に突起がツンって上を向くのが分かって、それがまた恥ずかしくて、気持ちが高揚しちゃう。
「あの、枝務さん」
って、少しおどおどした感じでの声音であたしの名前で呼びかけてくるのも、ゾクリと背中に電流が走る。
だって、あたしの名前がバレちゃうじゃん。
もし、スカートをめくりあげられて、あたしの無防備なお尻を曝け出して、へんな声を出しているのを見ていた人が、同じ方向に向かって歩いていたとしたら?
あたしの名前まで知られる事になるし、もう学校も制服で特定されちゃうし、イヤだよ。
そんなの恥ずかしすぎるって。
だって、あたしは江州専用なんだから!
って、あれ?
江洲はあたし専用だけど、あたしも江洲専用って……。
意識しちゃう。
江洲を男として、見てしまう。
チラって江洲の方に視線を向けて、いつも通りにしないとって意識して
「な、何よ。……江洲」
うわぁぁっ。
『何よ』で止めるはずが、専用を意識しすぎて名前を呼んじゃった。
あたしの無意識で、きっと、江洲はあたしだけを視てるのって、あたしだけを苛めてくれるって……。
独占欲が出ちゃってる。
周囲からしたら、あたしが名前を呼んだからって、そこまでの事は分かるはずないと思うけど、学校でなら気付く人がいるかも。
あたしが、江洲の事を江洲って名前で呼ぶことなんて無いから。
江洲が少しあたしの方に寄ってきて、太腿を視てる事が分かって、スカートを抑える手が自然に強くなる。
たった、これだけの事なのに、学校では江洲だけじゃなくて男子たちに太腿なんて視られてるのに……。
江洲に視られてるってだけで、あたしは普通じゃなくなる。
意識しちゃう。
そして、期待しちゃってる――。
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