第16話 プレゼントを君たちへ
ゲオルグ達との決着が付き、スズネは正式に俺達のパーティーに入った。彼女のような頼もしい仲間が増えた事は、世界を救う旅をする上で喜ばしい出来事だと思う。
「スズネさんがこれからも一緒にいれる事になって、私とっても嬉しいです!」
「あたしだって嬉しいニャ!これからもよろしくニャ、ルイーナ!」
「よろしくお願いします!スズネさん!」
日が落ち始め、町の宿へと向かう道は夕焼けに染まり始めようとしている。その道中で女性2人は、仲良く改めましての挨拶を交わしている。2人とも良い笑顔だ。
「ソルトも、よ・ろ・し・く・ニャ!」
普段とは違う声色で俺に近づき、こっちにも声を掛けるスズネ。気のせいか俺との距離が若干近いような。
「ああ、よろしくな!」
「~~♪」
距離の事は一旦置いて笑顔を返すと、スズネはいかにも上機嫌と言った様子。タタっとステップ混じりで早足になって俺達の先を行ったり、立ち止まってパーティーメンバー画面を見返してニンマリしたりしている。
パーティーと言えば、1つ気になる事があったのを思い出した。
「パーティー画面か。そう言えばルイーナ、パーティー強制解除の画面でルイーナの名前の所に、解除不可能って書かれてたんだよ。あれってどう言う事だ?」
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ガイドテキスト(リプレイ)
『強制解除するパーティーメンバーを選んで下さい』
・ルイーナ(解除不可能) ・スズネ
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「解除不可能って言うのは、解除不可能って言う事ですよ?」
「いやね、俺が聞きたいのはそこじゃないんだ」
女神様、知りたいのは何でそうなってるかなんですよ。
「解除不可能って聞いた事無いニャ!ルイーナズルい!!」
少し離れた所にいたはずなのに、しっかりと聞いていたらしいスズネが駆け寄って来る。
「これは仕方ないと言いますか。私が最初に末永くよろしくお願いしますと伝え、ソルトさんがそれに応えてくれただけなんです」
「それはだけって言わないニャ!ソルト絶対に意味分かってないニャ!」
あー、うん。今ちょっとだけ分かった気がする。女神が外せない装備的な状態になってるって事だろ?
「きっと心では分かっていたはずです。あのお返事は私の心を温め、脳を回復してくれましたから」
「何言ってるか分かんないニャ!これじゃあたしがすっごい不利ニャ!」
不利ってなんです?と言うかスズネさん、語気がちょっと強くなってません?さっきまで微笑ましい2人だったのになんなんだこれは。
「スズネ、スズネ!」
「なんニャ?」
とりあえず止めるために声を掛けてみると、スズネは耳を立ててこちらに振り返る。俺は何か話題を逸らす方法はないかと考え、遅い時間だが1つ用事を済ませる事にした。
「アマネの店って今から行ってもまだやってるか?頼んでいた物を受け取りに行きたいんだ」
「まだやってるけど、何を頼んだのかニャ?」
「それは行ってからのお楽しみと言う事で」
うん、店がまだやっててくれて良かった。頼んだ物をこの場で言うのは恥ずかしいので、はぐらかしつつアマネの店に向かう事にした。
◇◇◇◇◇
店内に入ると、やはりもうそろそろ店じまいと言う事か、アマネは後片付けの最中だった。
「いらっしゃい。あら、また来たのね」
「また来たニャ!ソルトが注文したやつを受け取りに来たニャ!」
「スズネ……良い事があったのね。あの2人のおかげ?」
「そう言う事ニャ!」
今の会話だけで、スズネとアマネは通じ合ったらしい。2人はただ同郷なだけでなく、きっと長い付き合いなんだろう。
「頼まれた物は出来ているわ。ちょっと待ってて」
そう言ったアマネは、カウンターの後ろの棚から装飾のついた1つの小箱を取り出す。
「はい、これが頼まれていた物よ」
「ありがとう。ルイーナ、これを見て欲しい」
俺はその箱を受け取り、ルイーナに見えるようにフタを開けた。
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ガイドテキスト
『以下のアイテムをルイーナに渡します』
・ルビーのネックレス
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「ネックレス、ですか?」
中に入っていたのは、ルビーの結晶のネックレス。
「これ、俺からのプレゼント。ジャケットを作った時の素材の残りで作ってもらったんだ」
「っ……プレゼント……!」
ルイーナはいつもみたいに暴走するでも、推しがどうとか言う訳でも無く、ただ顔を赤くしていた。
「ルイーナのおかげで、俺は自分に自信が持てたんだ。だからこれはその感謝の気持ちなんだけど、受け取ってもらえる?」
思っていた反応と違うため、俺は恐る恐る確認をする。
「はい……!ありがとうございます!!早速つけさせてもらいますね!」
ルイーナは大事そうに箱からネックレスを取り出し、自分の首に掛ける。
「どうでしょうか?」
「うん、似合ってる!」
ルイーナの首から見えるルビーのネックレス。それは金色の細身のチェーンが彼女の金髪とマッチしていて、胸元で赤く輝くルビーは、青色ベースになっている魔道服とのコントラストで、ルイーナを一段と綺麗に魅せていた。
「大事に……大事にしますね!」
「うん、そうしてくれると嬉しい」
はにかみながらそう言ってくれたルイーナ。良かった、気に入ってくれたのかな。
そんなやり取りをしていると、アマネが俺に声を掛けて来た。
「そうそう。もう1つの方も出来ているけど、予定を変えてあなたが渡す?」
「そうだな、そうするよ」
その問いに応えると、アマネは棚からもう1つの小箱を取り出して俺に渡す。
「スズネ、これプレゼントなんだけど」
俺は箱の中からプレゼントを取り出し、それをスズネに見せた。
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ガイドテキスト
『以下のアイテムをスズネに渡します』
・ルビーのヘアピン
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それは、先端にルビーの結晶が付いたヘアピンだ。
「え……なんであたしに……?」
スズネは自分にはプレゼントは無いと思っていたらしく、ポカンとしてヘアピンを見つめる。
「元々世話になったお礼をしたいなって思って、アマネに頼んでてさ。スズネが俺達とどこまで一緒にいるのか分かんないから、アマネに渡してもらうつもりだったんだ。だけど今は少し意味が変わってくるかな」
「意味って?」
「仲間になれた記念ってやつだな。これからもよろしくな!スズネ!」
──瞬間。俺は背筋に寒気を覚える。その元凶は目の前のスズネだ。
スズネの動きは止まっている。だがその目は瞳孔が細く縦に絞られ、まるで獲物を狙う肉食獣のようだった。
これ……プレゼントする物間違えちゃった?
「すまん、もしかして気にいら──」
「フニャッ!!!」
スズネは高速で俺の手からヘヤピンを奪い取ると、ルイーナの方にさっと移動して、俺に背を向けてしまった。
「……ルイーナ、あいつヤバいニャ」
「ええ、ヤバいですよね」
尻尾をゆっくりと揺らしながらそんな事を言うスズネと、目を閉じてうんうんと頷くルイーナ。
表情は読み取れないが、このヤバいって言うのは、俺がヤバい事をしてしまったで間違いないだろう。しくじった。
「でも……それが良いニャ」
「ええ、良いですよね」
「え、え?何?2人ともなんの話してるんだ?」
え、ヤバいのが良いの?どういう事?正直、プレゼントをミスったかもしれない焦りで俺は頭がついて行けない。
「…………もう我慢できないニャ」
「ええ、我慢しなくて良いんですよ。お互い頑張りましょうね」
「我慢できないって、そんなに怒ってるのか?ごめんな?いやもう本当にごめんなさーーい!」
結局その後、スズネの態度は普通に戻っていたし、ヘアピンも付けてくれていた。でもあれが結局どう言う話だったのか分からない俺は、宿でうなされながら眠りにつく事になった。
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