第14話 俺はその縁を手放さない
依頼の素材を回収し、後はギルドへの納品を残すのみとなった。昼時を過ぎて腹も減っていた俺達は、西の森を出てしばらく歩いた所で昼食を取っていた。
「うんまいニャ!外であったかいサンドイッチなんて最高ニャ!」
スズネが夢中でほうばっているのは、空中に浮かせた【ファイアボール】の威力を調整して温めたサンドイッチだ。パンの表面には焼目が入り、挟んだチキンバードの肉のジューシーな肉汁と葉野菜の食感が、口の中で踊り出す。町を出る前に調達しておいた食材を使った物だが、ルイーナの絶妙な火加減の調節により思わぬご馳走に変身した。
「おいしいですよね!私、今までは1人でこう言う事ばっかりやっていたので、他の人達と一緒にこれを食べれるなんて嬉しいです」
どうやらルイーナは、女神として活動していた時にこう言った調理を良くしていたみたいだ。
「それにしてもスキルの威力を調節出来るなんてな。俺も練習すれば威力を少しは抑えられるのか?」
「スキンヘッダーは常に最大火力なので調節は出来ません。常に最強なんです」
「あ、はい。」
やっぱり最強厨だよねこの女神。
「んにゃーっ!ごちそうさま!」
「ふふっ。気に入ってもらえたみたいですね」
「気に入ったなんてもんじゃないニャ!毎日食べたいくら……い……」
最後まで言いかけたスズネの表情が曇る。
「……この依頼でお別れだったニャ……」
そうだった、彼女はゲオルグとか言う冒険者のパーティーから離れられないと言っていた。つまりゲオルグ達が町に戻って来ていたら、俺達とは別れる事になる。
「その、1つ聞きたいんだけど、ゲオルグってやつとスズネの間には何があったんだ?」
受付のリリーさんのゲオルグ達の評価を聞く限り、余程の事が無ければスズネがそのパーティーに留まる理由は無いはずだ。
「……ゲオルグはあたしがサフサの町に来てから、最初に親切にしてくれた冒険者だったニャ。あたしはまだ駆け出しで、それも獣人って事で敬遠されてどこのパーティーにも入る事が出来なかったの。そこに同じ冒険者になったばっかりのゲオルグが『君も仲間を探しているのかい?じゃあ一緒に組まないか?』って声を掛けてくれたニャ。」
少しだけ、その瞬間を懐かしむように目を伏せるスズネ。彼女はその思い出を振り切るように顔を上げ、再び言葉を紡ぐ。
「組み始めの頃はゲオルグと対等な関係だったけど、依頼をこなすたびに、ゲオルグはあたしに気後れするようになって行ったニャ。きっとヒューマンと獣人の力の差を怖がっているんだって思って、あたしはあなたに危害を加えないよって安心させるために『義の契約書』を渡してしまったニャ」
「その、『義の契約書』ってなんなんだ?」
ギルドの受付でもその名前は出て来た。それがスズネを縛っている元凶なのだろうか。
「あたし達『東の国』で生まれた人間の忠義の証ニャ。自分で書いた『義の契約書』を相手に渡す事で、その渡した相手を裏切る事が出来ない契約の術式が成立するニャ」
「そんな大変な契約を結んだのか」
「初めて出来た仲間に怖がられたくなくて、後の事も考えずに契約して……一応契約書を渡してからすぐ後は、ゲオルグも最初に会った頃の様子に戻ってくれてた。でもあたし達がDランク冒険者になった時に、パーティーにバーンズとアメリが入ってから全部が変わったニャ。ゲオルグの態度はどんどん酷くなって、他の2人と一緒に罵倒してくるようになって……」
スズネの目がうっすらと潤む。これ以上は彼女が辛いだけだ。
「スズネ、もう分かった。話してくれてありがとう」
「うん……」
「スズネさん、向こうからパーティーを解除された今なら、何とか離れられるんじゃないんですか?」
ルイーナも若干瞳を潤ませながら、スズネに問う。向こうから解除したのであれば、裏切ったのはゲオルグだろう。契約破棄とはならないのだろうか。
「こうやって一時的に離れる事は出来ても、ゲオルグが契約書そのものを破棄しない限り契約の術式はずっと有効ニャ。契約に逆らい続ければ、あたしはいずれ死んでしまうニャ」
「そんな状態で俺達を手伝ってくれたのか!?」
「まだそこまでじゃないニャ。ゲオルグからの不義理があったのは確かだから、術式が少し緩くなってるのが分かるニャ。でも、そろそろ元に戻ると思う。だからこの依頼が終わったらお別れニャ……」
再び目を伏せるスズネに、返す言葉が見つからない。しかし俺の中に燻る感情が、このままで良いのかと俺に問いかけ続けていた。
◇◇◇◇◇
「依頼の素材を確かに受領致しました。皆さんお疲れ様でした!こちらが依頼達成の報酬になります!」
俺達3人は依頼が成功したと言うのに、暗い表情で受付の前に立っていた。今は目の前のリリーさんの営業スマイルが、とても眩しく感じられる。
「ありがとうございます」
袋に入れられた報酬袋を目にしても、テンションが上がり切らない。おかしいな、俺お給料とか大好きだったはずなんだけど。
「どうしたんですか皆さん。あ、もしかして討伐実績の話ですね?あの後確認しました所、ルビードラゴンの討伐成功はソルトさん達の実績として数えられるとの事です!なので今回の依頼達成を合わせて、2段階昇級のD級冒険者として認められる事になりました!討伐の賞金の5000万ゴルドは流石にすぐに用意出来ないので、すみませんが受け渡しはまたお待ち頂く事になります」
「5000万ゴルド?そんなに貰って良いんですか?2段階昇級ってのもいきなりですし」
依頼の報酬額と比べて賞金額が明らかに破格である。しかも2段階昇級までしてるし。
「もちろんです。各地のダンジョンの
「そんなにすごい相手だったのか……」
こう言う事を聞くと、スキンヘッダーの特殊能力のスキル効果100億倍がいかに狂っているかが分かる。
「では賞金の件はなるべく早く対応しますので、また後日ご連絡しますね!」
◇◇◇◇◇
受付でのやりとりが終了し、ギルドの外に出て来た俺達。つまり別れの時がやって来たのだ。
「2人ともいきなり実績がっつりで良かったニャ!」
先程までの暗い雰囲気を晴らすように、笑顔で俺達の成果を喜んでくれるスズネ。
「ありがとうございます!依頼がスムーズにこなせたのはスズネさんのおかげです!」
「そうだな、スズネがいて本当に良かった」
本心から俺はそう言った。出来ればこのままパーティーに残って欲しいくらいだ。
「おい!ゲオルグ達がようやく帰って来たってよ!」
「やっとかよ!どうせいつもの飯屋で威張ってんだろ?」
「そうらしい。何でもダンジョンの
「あ?ありゃ勇者様ってのが倒したとか噂で──」
せっかくの別れの時間を、近くの酒場の喧騒が邪魔をした。しかもゲオルグ達が帰って来たとの情報付きで。
「時間が来ちゃったみたいニャ。本当はもっと2人と一緒に……」
「スズネ?」
最後の方が聞き取れなかったが、きっとスズネは俺達と一緒の気持ちだ。
「なんでもない!ソルト、あたしをパーティーから外して!なんか自分からパーティー抜ける気分じゃ無くなったニャ」
ちょっとおどけているスズネのその願いは、ちょっとズルい物だった。
「お前なあ、俺やった事ないぞ」
「メンバーの強制解除をしたいって、頭の中で思えばいいだけニャ!」
変に明るいスズネの態度にため息をつきながら、言う通りにパーティーの強制解除画面を表示する。
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ガイドテキスト
『強制解除するパーティーメンバーを選んで下さい』
・ルイーナ(解除不可能) ・スズネ
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俺以外のパーティーメンバーの名前が目の前に表示され、スズネの名前に手が伸びる。これでいよいよスズネとも──
「ダメだ」
「ソルト?」
俺の手は、スズネの名前を選択する寸前で止まった。
「スズネ。俺はお前が欲しい」
「ニャ!?」
スズネが耳をピンと立て驚いている。言い方が合っているかは分からないが、俺はやっぱりスズネにパーティーにいて欲しい。
「もしも『義の契約書』の術式を無効に出来るとしたら、スズネはどうしたい?」
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