第11話 冒険者ギルドに行こう②


「お待たせしました!これでお二人の冒険者登録は完了しました。ダンジョンのぬしを倒した勇者様達でも、規則ですのでまずはF級冒険者からスタートして頂きます」


 F級冒険者か、こういう説明を聞くと本当に冒険者ってやつになったんだと実感が湧いて来るな。


「この冒険者ランクは1番下のF級から始まって、A級まで順に昇級していきます。例外でS級もありますが、滅多な事ではこちらには昇級しません」


「S級冒険者の人達は何か特別なんですか?」


 例外のS級……そう言う特別感あふれるワードは、ゲームが趣味だった俺の大好物だ。ここは是非とも詳しく聞きたい。


「A級の冒険者の中でも特に凄まじい実力を持ち、その力と実績をギルドに認められた特別な人達です。現在でS級として認定されている冒険者は5人しかいません。そちらの壁に飾ってある『S級認定者一覧』で名前と種族が公表されていて、冒険者の憧れの的になっているんですよ」


 リリーさんの言う一覧が気になり、受付横の壁に目を向ける。そこには額縁に入れられた『S級認定者一覧』が壁に掛けられていた。


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『S級認定者一覧』

 

 【大英雄】 グラント 種族:ヒューマン

 【魔女】  メリエラ 種族:ヒューマン

 【麗騎士】 ケヴィン 種族:髪長族

 【執行人】 シャドウ 種族:エルフ

 【剛力】  ダグラス 種族:ゴリラ 

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 おお、称号まで付いてる!なるほどなぁ、この人達が冒険者の頂点なのか……あれ?


「ゴリラ……?」


「はい、ダグラスさんはゴリラですよ」


 いやリリーさんね、そんな普通に言われましても。


「ダグラスは獣人にとっての英雄よ。彼の活躍のおかげで、獣人が冒険者になる道が開けたと言って良いわ」


 余所行きモードのスズネの解説のおかげで、彼が獣人である事が分かった。もう少しで本物のゴリラが冒険者をやってると勘違いする所だったな。


「彼はそんなにすごい人なのか」


「ダグラスさんに限らず、S級の皆さんはどの方も素晴らしい活躍をされています。ただ、ギルドからの特別な依頼を任されていたり自由に活動していたりするので、一般の依頼に姿を見せる事はないですね。」


「中々お目にかかれない存在って事ですか」


 そう言う部分も憧れる所なんだろうな。


「そう言う事になりますね。でもソルトさんも特別な勇者様ですから、どこかでS級の方にお会いする機会があるかもしれませんよ。もしかしたら、いずれS級冒険者になる可能性もありますし」


「流石にそれは……いや、頑張ってみます」


 自分がそんな特別な冒険者になる事は考えてもいなかった。一瞬否定しかけたけど、俺は勇者だ。ここは否定では無く、少しでも可能性を肯定した方が良い。


「期待してますね!ではそろそろ一般的な話に戻りましょうか。冒険者ランクは、受けられる依頼の難易度に関わってきます。F級冒険者ならF級の依頼まで。A級冒険者ならF級からA級までの全ての依頼を受ける事が出来ます。その冒険者ランクを上げるためには、依頼をこなしたり、特定の討伐対象等を倒して実績を積んでもらう必要があります」


「特定の討伐対象ってのは何ですか?」


「ギルドで指定されている凶悪なモンスターや精霊達の事です。例えば災害の原因になっているモンスターなどが対象になりやすいです。各地のダンジョンのぬしも、倒すのはとても困難ですが討伐対象になっていますね。討伐すると実績の他に賞金が貰えます。ソルトさん達はルビードラゴンの討伐に成功していますが、冒険者になる前にぬしを討伐した場合、どのような扱いになるのか分からないんです。きっちり確認してお伝えしますので、すみませんがお時間を頂きますね」


 ルビードラゴンの討伐が実績に入るなら、けっこうな信用を得られて昇級も早そうではある。だけど期待し過ぎない方が良いかもしれないな。となればやる事は予定通りだ。


「はい、そっちの件はよろしくお願いします。そしたら俺達、今から依頼を受けたいと思ってるんです」


「分かりました!先ほど言ったようにソルトさん達は今F級冒険者ですから、原則はF級の依頼しか受けられません。ぬしを倒した実力者には物足りないかも知れませんが、すぐに昇級出来ると思うので──」


「そこであたしの出番よ。A級冒険者が下級の冒険者とパーティーを組めば、その人達もB級の依頼までは受ける事が出来るわ」


 アマネ風の喋り方を続けるスズネが、ここぞとばかりに割って入った。そんな裏技があるのか。


「ああ、そう言う事ですね!スズネさんのサポートがあれば、初依頼がB級でも安心ですよ!まずはあちらの掲示板で受けたい依頼を探してみて下さい。決まったらこちらで依頼の手続きをしますので、また声を掛けて下さいね!」


 リリーさんに促され、俺達は受付の隣の大きな掲示板の前へ移動する。


「スズネが依頼を手伝わせて欲しいって言ったのは、こう言う事があるからなのか」


「えへへっ。驚いたかニャ?あたしが付いてきて良かったでしょ~」


 受付を離れたスズネは、いつも俺達と喋っている時の調子に戻っていた。うん、やっぱりこっちの方がスズネらしいなと思う。


「依頼がいっぱいですね!ソルトさんはどんな依頼が良いですか?」


 ルイーナの言葉で、目の前の掲示板に貼られた多数の依頼に意識が向く。上から下まで依頼書がびっしり貼ってある。それだけ冒険者への需要が高いと言う事なんだろう。


「すげえ、依頼ってこんなに種類があるんだな。これは選ぶのも大変そうだ」


「ランク別に場所が整理されているから、今はこっちのB級依頼の場所を見ると良いニャ」


 スズネが指をさして誘導してくれた場所を見る。それぞれ依頼には依頼人からの要請文が大きく見出しとして付いており、その下に依頼内容が記載されていた。



・『応援要請!グレイウルフ大量発生』:農場近くで確認されたグレイウルフの大群の討伐。報酬20,000ゴルド

・『ダンジョンでの素材回収依頼』:北のダンジョンに出現するビッグホーンの角を5個納品。報酬15,000ゴルド

・『被験体募集』:健康な冒険者の実験への協力要請。報酬30,000ゴルド以上応相談



 B級だけに絞っても様々な種類の依頼が並んでいる。そんな中で、1つの依頼に目が留まった。



・『助けて下さい』:西の森に出現するポイズンバードのくちばし20個とブルーメリアの花の納品。報酬3,000ゴルド



「この依頼だけ妙に安いな」


「あ、その依頼は私も気になってました」


「それは最近出たやつニャ。素材の回収が面倒な割に報酬が安くて、みんな気になってるけど手が出なかったんだニャ」


「冒険者も慈善事業って訳じゃないだろうから仕方ないけど、助けてってのは気になるよな」


 スズネの言い方的に、きっとこの金額だと割に合わないとか赤字になってしまうと言う事なんだろう。俺は依頼書を手に取り、一度受付に戻る。


「リリーさん。この『助けて下さい』って見出しの依頼なんですけど、依頼人はどんな人なんですか?」


「あまり情報は答えては行けないんですが、少しだけ教えちゃいますね。依頼人は町に住む女の子になります。報酬が少ないのはその子に出せる金額に限度があるからなんです。一応ギルドからも少し上乗せしているんですが、集める素材がB級相当なのに割が合わないので皆さん躊躇ちゅうちょされてる状況です」


 やっぱり金額がネックなのか。でも俺達が今求めているのは報酬では無く実績だ。こう言う他の冒険者だと手を出しにくい依頼こそ、勇者である俺が引き受けても良いんじゃないだろうか。


「……よし、この依頼にしよう」


 俺は少し


「そう言うと思ったニャ!」


「頑張りましょうね!」


 かくして、満場一致で俺達の最初の依頼が決定した。

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