第12話 俺のスキルが強過ぎる問題

「この森、まるでダンジョンみたいになってるな」


 依頼の素材を回収するために、俺達はサフサの西の森に来ている。その縦横無尽に生い茂った木々は上空すら覆っており、植物で出来たダンジョンと言った様相を呈していた。


「そうですね。マナも淀んでいますし、ほとんどダンジョンと変わらないでしょう」


 ここは実際はダンジョンとは認識されていない。しかし女神であるルイーナがそうやって言うのであれば、それと同じように凶暴なモンスターへの警戒が必要と言う事だろう。


「ここは出てくるモンスターのレベルは低いけど、厄介なやつが多いから気を付けるニャ。あとゴブリン達が罠を仕掛けてる事もあるから、シーフのあたしが先に進むニャ」


「はい、お願いしますね!」


 シーフという職業は戦闘スキルこそ少ないが、罠を察知や解除、拾ったアイテムの簡易鑑定、入り組んだダンジョンでのマッピングなどを得意としているらしく、ダンジョンの案内人とも言える存在だろう。加えて猫獣人であるスズネは、持ち前の優れた五感によって察知能力が鋭い。ここまでの間もモンスターの気配にいち早く反応し、獣人としての筋力を活かして素早く力強い一撃で敵を倒していた。


「スズネが前を歩くだけで本当に心強いな。」


「そこまで言われると照れるニャ。でももっ──みんな止まって」


 スズネが警戒態勢に入ったようだ。クンっと匂いを嗅ぎ、口と鼻を首元に巻いたスカーフで隠す。


「状態異常にしてくるモンスターがいるから、ルイーナも口と鼻を何かで押さえるニャ!ソルトはそこの曲がり角で待ち伏せしてるやつを倒して!」


「分かった!」


 スズネの指示でルイーナは手で口元を押さえ、俺は走り出し角を曲がった。


「ブシューッ」


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 パラライマタンゴ Lv20

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 曲がり角の先で待ち伏せしていたのは、人型のキノコモンスター。出会い頭に俺に対して、キノコ頭から胞子出して浴びせて来る。なるほど、そう言う攻撃方法ってわけだ。


「残念。俺には【清潔感】があるんでね」


 パッシブスキル【清潔感】で状態異常耐性が100億倍になっている俺には、麻痺も毒も効かない。そのままモンスターの目の前に踏み込み、頭を振りかぶり念じる。【ヘッドバット】発動だ。


「ふんっ!!」


「ブシy──」


 100億倍の頭突きはキノコを周囲の胞子ごと消し去り、その衝撃が俺の前方にある木々を破壊して行く。破壊の衝撃は遠くまで続き、壁をぶち抜いて新しい道を作ってしまった。


「ソルトー!終わったかニャー?……うわ、ちょっとやり過ぎニャ」


 曲がり角からひょっこりこちらへ顔を出したスズネが、ちょっと引き気味に言う。そうだね、まったくその通り。


「ごめん、加減とか出来ないわこれ」


「推しが強くて今日も幸せ……」


 あー、また女神が自分の世界に入ってるよ。


「うにゃーっまた嗅いじゃった。何度嗅いでもこの胞子の匂いは苦手ニャ。ルイーナそろそろ戻ってきて!あたし最初にちょっと胞子吸っちゃってるから回復お願いニャ!」


「あっ、分かりました!【キュア】!」


 ルイーナの扱いに慣れて来たらしいスズネが、状態異常の回復を要求している。ちゃんとパーティーとして成り立ってる様子に、俺は少し心が躍った。


「ありがとニャ!やっぱり回復スキルを使えるメンバーがいると楽で良いニャ」


「ふふっお役に立ててるか不安でしたが、大丈夫みたいで良かったです」


「何言ってるニャ!ルイーナが見てるとソルトのやる気が上がるから、いるだけでも役に立ちまくりニャ!」


「そうなんですか?」


「なっ!?別にいつでもやる気あるから!」


 な、なにを言ってるのかな?この猫ちゃんは。


「ふーん?」


「くっ……」


 本当~?みたいな感じで俺を見るスズネ。やばい、なんて言ったら良い?正直これはかなりの強敵だ。


「ニャハっ。ごめんごめん!冗談はここまでにして、ここからどうするかなんだけど……」


 からかいモードを解除してくれたスズネが、新しく破壊された道を見て思案している。


「すまん、やっぱやり過ぎたな」


「ううん、むしろ近道が出来そうでグッジョブニャ!」


「マジか!なら良かった」


「これなら目的地まですぐだけど、気を抜かずに着いて来て。それじゃ出発ニャ!」


 ルートを再計算したスズネの先導で、俺達は改めて最初の目的地であるポイズンバードの縄張りへ向かった。



◇◇◇◇◇


「クァー!」


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 ポイズンバード Lv18

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 天井まで覆う植物の迷路を抜けた先に広がる青空に、黒い影の声が響く。この空間が、ポイズンバード達の縄張りだ。


「しっ。まだ気づかれてないからしゃがんでて。あいつらがもっと下に降りてきてから行動開始ニャ」


 スズネは俺達を制止し、黒い鳥の群れを観察する。ポイズンバードはくちばしに毒を蓄えたモンスターで、1匹ではそこまで強くはない。しかし群れる事でその脅威は何倍にも増すそうだ。


「一応確認だけど、スズネの合図で俺が突っ込んで攻撃を受ければ良いんだな?」


「それで良いニャ」


「ソルトさんがポイズンバード達を倒してから、みんなでくちばしの回収ですね」


 もはや作戦と呼べるか分からないが、俺がポイズンバードの縄張りの中心に出て行ってあいつらの攻撃を全て受け、反射で倒しまくるのが今回の作戦となっている。

 上空を飛び回っている黒い影達が降りて来る。スズネはそれを、獲物を待ち構える肉食獣のようにじっと見据える。そしてその時は来た。


「今ニャ!」


「うおおおおお!」


 合図を受けた俺は、出来るだけ注意を引けるように大声でモンスター達の中心へと走った。


「「「クァァー!!!」」」


「掛かった!」


 ポイズンバード達の注意を引く事に成功し、やつらはスキルによって自動的に俺に攻撃してくる。


「クァa──」


 鳥達は毒のくちばしで俺を攻撃し、【ダイヤヘッド】による反射で跡形も無く消えていく。これで後はあいつらが全滅するのを待つだけ……跡形も、無く?


「あ、これダメじゃね?」


 跡形も無く消える=くちばしの回収が出来ない。


「失敗ニャー!?」


 ほぼ俺と同時に作戦が失敗した事に気が付いたスズネが声を上げる。俺のスキルの威力があり過ぎるせいで、回収したい素材ごと消し飛び続けるモンスター達。しかもスキルで攻撃を引き寄せ続けるから止まらない。まずい、これは非常にまずい。


「ルイーナ!スズネ!攻撃して、攻撃!」


 俺もなりふり構わず声を上げる。モンスター達の攻撃は俺に来るから、2人には倒すことに専念して貰えればまだ何とかなる!


「仕方ないニャ!」


 両手の『からくり小手』から鉤爪が飛び出すと同時に、スズネは上空のポイズンバードへ向けて跳躍する。一瞬で獲物を追い詰めたスズネは、鉤爪でそれを切り裂いた。


「行きます。【サンダー】!!」


 もう一方では、スキルを唱えたルイーナの髪が光を纏い、手に持った杖から雷鳴が轟く。宙を走る雷は毒の鳥の身を焦がし、墜落させていく。


「2人とも、がんばってー」


 俺はもう応援に徹していた。まさか自分のスキルが強過ぎて素材が回収出来なくなるなんてなあ。


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 ガイドテキスト

『レベルアップしました。アクティブスキル【カミソリ生成】を習得しました』

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 そんな中表示されたガイドテキストに、俺は少しだけ希望を見出す。もしかしたら、まだ俺も活躍出来るかもしれない。


「やってみるか──【カミソリ生成】!!」


 スキルを唱えると、俺の右手が光に包まれる。やがてその光はまるで剣のような形へと姿を変えていった。


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 I字カミソリ(AI搭載):生成武器。剃りたいものだけを剃れる。

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 「いや、それにAIはおかしいだろ」


 光が収まった時、俺の右手には長剣の大きさのI字カミソリ(AI搭載)が握られていた。

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