第10話 冒険者ギルドに行こう①
俺の服装問題が一応の解決を迎え、俺達は冒険者ギルドへと辿り着いた。
「ギルドの建物ってけっこうデカいんだな」
その2階建ての建物を見上げた感想が、俺の口からこぼれた。サフサはそれなりの規模の町ではあるが、周囲の建物は宿屋等の施設を除けばそこまで大きな物は少なく、ギルドはその中では目立つ大きさだった。
「それはそうニャ。ギルドは冒険者にとって必須の場所だし、冒険者がたくさんいれば町も潤うから立派な建物が作れるのニャ」
「そう言う事か。ここに来る間にも冒険者っぽい人達とけっこうすれ違ったもんな」
多くの冒険者で賑わう町だからこそ、ギルドも格式のある建物を構える必要があるんだろうな。
「私達もその一員になるんですよ。中に入って早速登録しましょうか」
立派な入口の扉をくぐり、建物の中へと入る。玄関は広めのエントランスホールとなっていて、その先に受付があるようだ。これなら万が一複数のパーティーが同時に受付を訪れても窮屈な思いはしないだろう。
「いらっしゃいませ!ご用件は──スズネさん、帰ってたんですね!!」
「おはようリリー。何とか無事だった……わ」
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リリー ♀ 種族:ヒューマン
職業:受付嬢 Lv10
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リリーと呼ばれた受付嬢は、スズネを見て表情を明るくする。一方のスズネは余所行きの顔をした猫みたいな態度で、語尾もニャでは無くなっている。まるでアマネみたいな話し方だ。
「ゲオルグさんのパーティーが、まだ町に戻ってないって聞いて心配してました!ゲオルグさん達は一緒じゃないんですね?」
「ゲオルグ達はダンジョンの
「A級冒険者になったばかりでそんな無謀な事をして、スズネさんまで見捨てるなんて……そもそもA級になれたのだってほとんどスズネさんのおかげだって言うのに……スズネさんだって、彼らのパーティーじゃなければもっと上に行けているはずです!パーティーを強制解除されたんですよね?だったらこのまま離れた方が良いですよ!」
「前に言ったでしょ。『東の国』で生まれた者は義を重んじるって。ゲオルグが『義の契約書』を持っている限り、あたしから離れる事は出来ないの」
「そんなのってひどいですよ……」
A級冒険者と言う単語は初耳だが、こう言う場合A級はランクが高いと相場が決まっている。つまりスズネはすごい冒険者と言う事になる。しかし、そのゲオルグとスズネにはだいぶ込み入った事情があるようだ。
「その事は別に良いの。今日の本題はこの子達よ」
「ソルトです」
「ルイーナと言います。今日は私達の冒険者登録をするために来ました」
それまでの話を断ち切ったスズネに紹介される形で、俺達は自己紹介と目的を告げた。
「ソルトさんとルイーナさんですね。もしかしてなんですがその格好、ソルトさんは噂の勇者様じゃないですか?」
さっきまでの雰囲気を引きずらない営業スマイルで、リリーさんが俺に尋ねる。この頭は勇者のトレードマークとして認知され始めているようだ。
「ええ、その通り。彼が神託で告げられていた輝きの勇者様。ちなみにあたしを助けて
俺達に代わって売り込みをしてくれるスズネ。しかも倒した事が証明出来るように、ルビードラゴンの体の一部を腰袋に保管していたようだ。
「あのルビードラゴンを!?スズネさんが嘘を付くとは思えませんし、レベル20で
あー、そうそう。そうだよね。俺のステータス見たらこの職業気になるよね!
「スキンヘッダーとは至高のスキンヘッドを持つソルトさん専用の世界最強の職業です」
「は、はあ……」
女神!早口で脳内設定言うのやめて!リリーさんがかなり戸惑ってるじゃないか!
「そ、そう言えば俺職業の事詳しくないんだけど、職業って言うのはどうやって決まってるんですか?」
「勇者様はこの世界の人ではないんでしたね。職業とは町の住人にとっては『役職や肩書』みたいなものなんです。ですから私なんかは受付嬢ですし、露天商の方達は商人となります。だから就いた仕事が変われば基本的には職業も変わりますし、仕事にまだ就いてない子供達は、職業は空欄である事が多いです。あとこの国の兵士の方達は、階級が上がったり騎士の位を拝命されると、職業が上位の物に更新されたりしますね」
リリーさんの説明だと、仕事の肩書として職業がステータスに表示されるって感じなんだな。
「あれ?でもそれだと冒険者の場合はどうなるんだろ?依頼を受けられると言っても、冒険者の職業は仕事って分類じゃないですよね?」
「冒険職に就く場合、大抵の方は冒険者ギルドに登録する時に『適性の玉』と呼ばれている水晶に触れて、その人の適正に合った職業が自動的に選ばれる事になるんです。冒険職によって使えるスキルが変わりますが、好みに合っている職になる事が多いですね。ですからソルトさんやルイーナさんのように最初から冒険職に就いている方は珍しいんですよ」
俺はまともな方法でスキンヘッダーになった訳じゃないし、ルイーナも偽造してる。そうじゃないパターンが気になるな。
「珍しいってだけで、俺達みたいに登録する前に冒険職に就いてる人もいるって事ですか?」
「はい、いらっしゃいますよ。生まれた時から天性の職業に就いている場合があって、これがかなり珍しいです。もしくは特定の冒険職のスキルが使いたいと言う方が、努力によって自分の好きな冒険職に就いている場合があります。でも『適性の玉』を使えば好みに近い職に就けますから、大体の方は登録の時に初めて冒険職に就くと言う事が多いですね」
「その人が納得する職業を選び出すなんて『適性の玉』ってすごいんですね」
「もし良かったら試してみますか?もし今と別の冒険職に適性があれば、その時は職業を上書きするかどうかを決められますよ」
俺もルイーナも特殊な職業だ。俺はスキンヘッダーのままが良いだろうし、ルイーナは下手をすれば女神である事がバレるかもしれない。
リリーさんへの返答について、一応ルイーナに目配せをして頷きによる同意を得る。
「いえ、俺達の職業はこのままで行きたいと思ってます」
「分かりました。では、職業はそのままで登録を進めて行きますね!」
営業スマイルが板に付いているリリーさんは、慣れた手つきで登録の手続きを進めていく。
その手続きの書類を見ていて、俺は違和感に気が付く。それは俺が、この世界の文字や言語を当たり前のように理解できていると言う事だ。せっかくだから手続きを待っている間に、その事をルイーナに聞いておこう。
「なあルイーナ。もしかして転生の時に、この世界の言葉を分かるようにしてくれたのか?」
「はい。やっぱり言葉が通じてこそだと思いますから!」
「確かに、こうやって話しが出来るのって大切だもんな」
「そうですね。私もソルトさんと話している時間が、とても大切ですよ」
「そ、そっか」
笑顔で恥ずかしげも無くそんな事を言うルイーナに、俺はドキッとした。普段が普段なだけに、こう言う不意打ちは反則だと思う。
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