第9話 真紅のレザージャケット
「冒険者になるならハッタリも必要ニャ!ソルトはまずその服装を勇者って言える感じにしてからギルドに行くべきニャ!」
スズネの一言で、俺達はギルドに行く前に寄り道をすることになった。
「まあ今まで気にする余裕が無かったけど、勇者とか名乗るならこの格好は見直すべきだよな」
「何を言ってるんですか?ソルトさんはどんな格好でもスキンヘッダーに相応しいですよ?」
今の俺の格好は、黒のTシャツに薄い青色のジーパンと言う転生前夏仕様の軽装。確かにこれでは勇者の格好としてもどうかとは思う。と言う訳で、俺の服装をそれらしいものに変えるために鍛冶師の店に向かっているのだ。
「なあ、これから行く鍛冶師の店ってどんな所なんだ?」
「あたしの同郷の子がやってる店で、良くこの両手の『からくり小手』のメンテナンスをしてもらってる所ニャ。腕は確かだし、武器や防具のオーダーメイドも受け付けてるニャ」
「それは楽しみだな!」
若干店の宣伝が入ってる気もするが、オーダーメイドなら旅をしていくのにも良い物が手に入るんじゃないだろうか。
「オーダーメイド。せっかくですから素敵な服を考えましょう。あ、私以前にソルトさんがスキンヘッダーとして活躍するならと妄想していたデザインが」
「ここだニャ!」
目的の店に着いたようだ。俺もスズネも、この服装の話になってから変なスイッチが入りっぱなしのルイーナの話を聞き流して店の中に入る。
「いらっしゃい……スズネ、来たのね」
「うん!今日はアマネにお客さんを連れてきたニャ!」
「そう。いらっしゃい」
----------
アマネ ♀ 種族:ヒューマン
職業:鍛冶師 Lv40
----------
アマネと呼ばれた店主は、あまり表情を動かさずこちらに挨拶をした。その容姿は黒髪のポニーテールで、まるで日本人のような顔立ちだった。スズネの名前を聞いた時からもしかしたらと思っていたけど、この世界にも日本と似たような場所があるのかもしれないな。
「今日はですね!ソルトさんのこの素晴らしいスキンヘッドに似合う服を作りに来ました!」
「スキンヘッドと言うは良く分からないけど、オーダーメイドをご希望なのね?予算はどのくらいかしら」
「予算はけっこうあるから、多分気にしなくて良いんじゃないかな?」
せっかくのオーダーメイド。予算は惜しまないようにしたい。
「そう。じゃあ早速どんな防具にしたいか教えて
「そうですね。スキンヘッダーは世界最強ですから性能は二の次です。デザインが命です」
「何を言ってるか分からないわ。それに性能は大事よ」
ですよね。アマネの言う通り!
「性能ならスキンヘッダーのスキルは100億倍なので防御力はいりません!」
「何を言ってるか分からないわ。本当に防御力がいらないの?」
「それなら動きやすさと付加効果を重視したいニャ」
「こんなデザインとかどうでしょうか!」
多分それルイーナが妄想してたってやつかな?見られて大丈夫なやつ?
「付加効果を付けたいなら何か素材はあるかしら」
俺達が持っている素材はルビードラゴンの物しかないが、大きな精霊晶は何か別の使い道がありそうなので残しておきたい。だったらここは
「それならルビーの結晶とかどうかな?」
「良いですね!」
「よし、じゃあ取ってくる!」
「なら防具の生地はこちらで用意するわね」
俺が素材を用意するためにウォッシュルームへと入った後も、残った3人の話し合いはヒートアップしていたと言う。
◇◇◇◇◇
防具の作成に入ったアマネが『すぐに終わるから待ってて』と言ってから15分ほどが経ち、奥の作業場から彼女が出て来た。
「完成したわ」
「早いな!防具の作成ってこんなに早く出来るんだな」
「ええ、鍛冶師のスキルならこのくらいの時間で出来る」
鍛冶師という職業のスキルにかかれば、オーダーメイド品でもあっという間に出来上がってしまうと言う事か。この辺りのスキルのすごさは流石異世界って感じだな。
「今回は細かいオーダーと質の良い素材のおかげで良い物になった。早速確認してみて」
そう言ったアマネが、出来上がった防具を渡して来た。
----------
□アイテム入手
・真紅のレザージャケット:防具。防御力+1。即死攻撃無効。精神攻撃無効。
----------
渡された防具は、落ち着いた濃い赤色で染められた皮のジャケットだった。さっきの話し合いの通り防御力は申し訳程度だろうが、2つの無効効果が付与されている。
「攻撃無効の効果が2つ付いてるけど、この2つはどんな攻撃なんだ?」
「即死攻撃はダメージは無いですが、成功すると直接相手の命を奪ってしまう攻撃です。精神攻撃の方は魅了や幻覚等の精神に作用する攻撃の事ですよ……ふへ」
ルイーナさん。なんか説明の最後にふへって聞こえましたが?
「なるほど。スキンヘッダーのスキルで防げない部分を補ってくれる良い防具だな」
「しかも無効ってなるとかなりレアで強力な効果ニャ!流石アマネの作った防具ニャ」
知り合いのよいしょに勤しむスズネの言い分だが、確かに無効は明らかに強い効果だ。絶対的な安心感があって良い。状態異常を防ぐ【清潔感】と、ダメージをカットし反射出来る【ダイヤヘッド】。この2つのスキルの穴をちょうどカバーするかなり良い効果の防具だと思う。
「ハアハア……ソルトさん……そろそろその防具を着てみてはどうでしょう」
悪寒が走った。本当にこれが女神のささやきか?
「鏡はそこにあるわ。どうぞ好きに使って」
やっっっべ。これ
「ええい、もうどうにでもなれ!!」
俺は覚悟を決めて、ジャケットを羽織った。自分では似合っているか判断出来ないが、鏡で見る限りちょっとは勇者と名乗ってもおかしくない格好になったんじゃないだろうか。とても良いデザインだと思うし、上品な赤の色味もすごく気に入った。
「な、なあ、どうだルイー……ナ?」
俺が鏡から振り返ると、ルイーナは鼻血を垂らして動きがフリーズしていた。
「私の妄想が……形に……」
もうすごく幸せそうな顔してるねコレ。
「サングラス……」
「え?」
「サングラス!約束のサングラス掛けて!ソルトさんサングラス!」
忘れてた!!問題を先延ばしにしたツケがこんな所で来るなんて……恥ずかしいけどやるしかないか。
「……【サングラス生成】」
俺はサングラスをスキルで生成し、それを恐る恐る自分に掛けた。
「あ゛っ」
突然変な声を上げて失神する
「ルイーナどうしたニャ!ソルトこれどういう事ニャ!?」
「どういう事か俺も知りたいよ……もう気にしないでそれを外に運んでおいてくれない?代金払ってくるよ」
「わ、分かったニャ?アマネ、ありがとニャ!」
戸惑いながらもルイーナを抱えて店の外に出るスズネ。それを確認した俺はサングラスを外してアマネの方に向き直す。するとサングラスは光の泡となって消えてしまった。
使い終わったサングラスは消えるのか、ウォッシュルームと似た感じだな。
「代金だけど5万ゴルドで良いわ。本当はこの出来の防具ならもっと高くするんだけど、あんなに楽しそうにしてるスズネを見るのは久しぶり……いえあそこまでは初めて見たもの。そのお礼よ」
「スズネはいつもあんな感じじゃないのか?」
俺はアマネの言葉にかなり驚いている。スズネはいつも明るくて、あれが普通だと思っていた。でもそれは少し違うようだ。
「ごめんなさい、今の話は忘れて。そう言えばこれ、使ったルビーの結晶の残りを渡すわ」
「おお、ありがとう」
アマネは俺にルビーの結晶の残りを返してくれた。使った素材が余るなんてこれは良い誤算だ。これならもしかして……
「アマネ、ちょっと相談があるんだけど」
こうして俺は店を出る前に、アマネにある相談を持ち掛けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます