第8話 助けた猫が付いてきた
「うーんっ!しっかり寝れたな!」
初めて迎える異世界の朝。宿の部屋には日が差し込み、窓を開けると爽やかな風が吹き抜ける。外に見えるサフサの町はとても穏やかで、昨日の賑やかだった昼下がりとは違う印象を見せた。静かな町に心地よい小鳥のさえずりが聞こえる。
「やっぱりこういう景色って良いよな」
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ハミングバード Lv1
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「モンスター!?こんなところにも出るのか」
小鳥に目を向けると、なんとモンスターとして名前が表示されていた。俺は身構えるが、モンスターは特にこちらを襲う訳でも無く朝を歌い続ける。
「もしかして、この世界の生き物全体がモンスターなのか」
ダンジョン内のモンスター達は凶暴だったが、外にいるものは比較的大人しいのだろうか?少なくとも目の前の朝を告げる鳥は、ターゲットを引き寄せるスキルがある俺に対して攻撃をしてこないのだから『敵』では無いという事は分かった。それなら多分農業で用いられるモンスターなんてのもいそうだ。そんな事を考えていると、ガイドテキストが俺の前に表示された。
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ガイドテキスト
『スキル取得条件、”一定レベル到達と一定時間日の光を浴びる”を達成しました。パッシブスキル【ソーラーヘッド】。アクティブスキル【ソーラーヘッドフラッシュ】を取得しました』
□パッシブスキル
・【ソーラーヘッド】:太陽の光を頭で吸収し、その力を貯める。
□アクティブスキル
・【ソーラーヘッドフラッシュ】:ソーラーヘッドで集めた光を前方に照射する。
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俺の頭はソーラーパネルかよ。
この説明文を見る限り、太陽光発電とフラッシュライトみたいなスキルかな?ダンジョンの中が滅茶苦茶明るくなったりするのだろうか。とにかく使う時は100億倍って事を考えて相当用心しないと、周りが大変な事になりそうだな。それにしても、異世界でもあの光の源は太陽って名前なんだな。
「このスキルはどっかで確認するとして、朝風呂でも入るか」
スズネの案内してくれた宿はサービスも内装も中々に良く、個室に浴槽も付いていた。せっかく早起きしたのだし、こう言うのはきっちり味わっておくのが俺の信条だ。俺は宿から貸し出された部屋着を脱いで、風呂場への扉に手を掛ける。
「そうだ、風呂入る前にラムダに頭を剃ってもら──」
「おはよーソルト!もう起きてるニャー?」
「あ。」
勢いよく部屋の扉が開き、元気いっぱいなスズネが入って来た。ノックしろー?俺今すっぽんぽんだぞー?
「ふゃ……フニャー!?」
宿全体に、俺のソルトジュニアを見てしまったスズネの悲鳴が響いた。
◇◇◇◇◇
「なんていうか、その、ごめんな?」
「いやー、元はと言えば勝手に入ったあたしが悪かったニャ……」
朝食を囲む席の中。俺とスズネは少し気まずい感じであったが、先程までぐっすり寝ていたらしいルイーナはきょとんとしている。
「すみません2人とも。私、昨日スズネさんにご馳走になってからの記憶があやふやでして。もしかして私何かしちゃってました?」
ルイーナはどうやら昨日自分が酔っていた事で、この雰囲気になったと思っているようだ。
「ううん、大丈夫!酔っぱらったルイーナは可愛かったニャ~」
スズネがニヤリと笑い、ルイーナをいじる。昨日抱き付かれてたじたじだったお返しだろうか。でもおかげで気まずい雰囲気を何とか出来そうだ。
「うう、やっぱり私酔って変な事を?」
顔を赤くしながら、何をしたんだろうとしどろもどろになる女神。ここは1つ、俺がさらっとフォローしておこう。
「大丈夫。いつもよりは変な事言ってなかったぞ」
あ、つい本音が。
「私いつもの方が変なんですか!?」
え、自覚されてないんですか?まじかよ女神、せめて自覚してスキンヘッドジャンキーやってると思ってたんだけどな!
「まあ気にするな。スズネの話を聞いて良い子ですねって、頭を撫でたりしてただけだよ」
「恥ずかしかったけど、あれはあれでちょっと嬉しかったニャ」
よし、このままさっきの本音は流そう。
「お、思い出してきました。お酒って怖いですね……気を付けます」
ルイーナはだんだんと昨日の自分を思い出したようで、さらに顔を赤くしながら反省を述べた。いつもの言動も少しは反省して良いんだぞ?
「そうそう、この後ソルト達はどうするつもりニャ?」
「そういや俺はどうすれば良いか分かってないな。ルイーナ、この後は何をしたらいい?」
俺の目的はこの世界を救う事だが、やる事についてはルイーナに任せきりだ。しっかりこの世界のことを理解していって、いずれは自分でも判断できるようにしなければいけないな。
「えっとですね。まずは冒険者ギルドで、冒険者として登録をしたいと思っています」
「ギルドってどんな所なんだ?」
「冒険者への依頼を取り仕切って報酬を出したり、冒険に必要なサポートをしてくれる場所になります。登録をしておけば、どこの町に行ってもギルドがあれば冒険者はその恩恵を受けられるんですよ」
冒険者にとっていたれり尽くせりな場所って事なのか。
「なるほど、旅をするなら登録した方が良いよな」
「今日は登録だけ?依頼は受けるのかニャ?」
「依頼は受けたいと思っています。旅の資金は既にたくさんありますが、この国の首都に行く前に一度冒険者としての実績を積んでおきたいんです」
今現在、ルビーの結晶を1つ売った代金である3000万ゴルドがウォッシュルームで保管されている。スズネが言うには何年も遊んで暮らせる額らしく『いくらかなり大きめの結晶って言っても、あのがめつい宝石商が値切らずにあんな金額で買い取ってくれるなんてよっぽどの事ニャ!』との事だった。
しかし金だけあっても、突然現れた俺を信用してもらえるような実績はまだない。女神に選ばれた勇者であれど、信頼を得るためにここはしっかりと地道に積み重ねるべき所だろう。
「それならあたしにも依頼を手伝わせて欲しいニャ!ソルト!あたしをパーティーに入れて?」
スズネがパーティーへの参加を申し出ると、ルイーナもこちらに視線を向けた。ここは俺の判断で良いって事だな?なら俺に断る理由は無い。
「うん、ぜひ入って欲しい!よろしくな、スズネ!」
「よろしくお願いします。スズネさん!」
「こっちこそよろしくニャ!」
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ガイドテキスト
『スズネとパーティーを組みました』
□パーティーメンバー
・ソルト Lv20 ・ルイーナ Lv10 ・スズネ Lv58
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ガイドテキストで表示されると実感が湧くが、スズネの加入はとても心強い。
「またスズネの世話になっちゃうな」
「水臭い事言わないの!あたしが手伝いたいだけなんだからそれで良いんだニャ」
「うん、ありがとな。じゃあ朝飯食べたらギルドに行こうか!」
こうしてスズネが依頼を手伝ってくれる事になり、朝食を食べ終えた俺達はギルドへと向かった。
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