第7話 初めての食事の席にて

 ウォッシュルームにアイテムを預けた俺達は、ダンジョンから一番近い町『サフサ』にある料理店で飯を食べていた。


「うまい!この世界の料理ってこんなにうまいんだな!」


「そうですね!こんなに美味しいなんて、お料理に感謝しなくてはいけませんね」


 テーブルに並んだ料理はどれも絶品で、一緒に提供された酒も口当たりが良くて飲み過ぎてしまいそうだ。


「いやーそんなに気に入って貰えるなんて、あたしイチオシの店に連れてきて良かったニャ」


「転生して初めての飯がここの店で良かったよ!ありがとな!」


「えへへっ!それにしてもこの世界に召喚されたばっかりであの難易度の高いダンジョンに挑むなんて、勇者って言うのは特別なんだニャ」


 あのダンジョンは攻略が難しいダンジョンだったようだ。転生したばかりでそんな場所を乗り越えられたのは、スキンヘッダーだったからこそと言えるだろう。

  

「俺も最初はやれるか不安だったけど、スキンヘッダーの特殊能力とスキルのおかげで何とかなったんだ」


「『スキル効果100億倍』だったかニャ?ウォッシュルームもそうだけど、本当に無茶苦茶な能力だニャ」


「それは俺も同感だよ」


 ウォッシュルームに入って俺のスキルを目の当たりにしたスズネが、素直な感想を口にする。うんうん、そう思うよな。この世界に来て熱烈なファンとしか会話してなかったから、感覚が麻痺するところだったよ。


「え、ソルトさんに相応しい素敵な能力ですよね?」


 出たなスキンヘッドガチ勢。良いのかルイーナ?スズネ相手にもう化けの皮が剥がれてきてるぞ?


「まあ素敵と言えばそうかもニャ。あたしをあのダンジョンのぬしから守ってくれた時、けっこうカッコよかった気がするニャ」


 あの時スズネは意識があったのか。いわゆるボス戦ってやつだったから必死だったけど、そう見えていたなら照れるけど悪い気はしない。


「へ、へえ。そう言えばぬしの部屋から逃げ出して来た連中がいたんだけど、そいつらは俺の頭を見て怖がったり驚いたりしてたな」


 ぬしの話を聞いて、俺はあの冒険者達の話を思い出す。断じて照れ隠しで話題を変えようとしている訳では無い。


「多分それはゲオルグ達かニャ?あいつらなら仕方ないかも」


「知り合いなのか?」


ぬしに勝てないからってあたしの事を見捨てて逃げた薄情者達ニャ。まあもう終わった話ニャ」


 もうおしまいと言うように、手で払うような仕草をするスズネ。そう言う事ならこれ以上は聞かないようにしておこう。

 

「スズネは俺と話す時、始めから物怖じしてなかったよな」


「そりゃああたしもちょっとは驚いたけど、助けてもらったのにそう言う態度は失礼だし、あたしらしく接したかったのニャ」


「そういうのありがたいよ。俺の頭はこの世界では他にいない見た目って事らしいからさ」


 サフサの町に着いた時も、町の住人達は最初は髪の無い頭に驚いている様子で、本当に全員がフサフサなんだなとその時実感した。まあその後すぐに「神託で啓示されていた勇者様か」と引き気味ではあるけども納得してくれていたので、みんな悪気がある訳ではないのは理解している。


「あたしも珍しい見た目だから、そういう気持ちは分かるニャ」


「猫獣人ってこの町では珍しいのか?」


「そっか、ソルトは別の世界から来たから知らないよね。この世界では獣人って言う種族そのものが珍しいニャ」


「そうだったのか……」

 

 俺は少しデリケートな部分の質問をしてしまったかも知れない。俺が考え込んでいるのを察してか、スズネが話を続ける。


「マナがモンスター生み出すのは知ってるかニャ?それと似たような感じでマナの負の力がお腹の中の子供に影響が出る事があるの。そうするとお母さんの種族がヒューマンなのに、モンスターのような力と姿を宿した獣人が産まれる事がすごく稀にあるんだニャ。見た目も普通の人と違うし、人より力が強いから、初めて会う人には怖がられたりするニャ」


「だから気持ちが分かるって言ったのか」


 確かに俺は、この世界に来てからは唯一のスキンヘッドである。でも俺の世界では、生きていく内に様々な理由からスキンヘッドや坊主頭にしている人達が他にもいた。生まれてからずっと奇異の目で見続けられてきたであろうスズネの心情は、簡単には想像できない。


「うん。だからこんなあたしに良くしてくれた人達には、しっかり恩を返したいって思ってるんだニャ」


「ごめん、辛い事を聞いちゃったな」


「ううん、良いの!なんとなくソルトには知っておいて欲しいかなって思ってあたしが話したんだし、気にしないで欲しいニャ」


 俺の謝りに明るく応えるスズネ。この世界でルイーナの次に知り合えたのが彼女で良かったと思う。


「ふぐっ……ぐすんっ。スズネさん……良い子に育ちましたねぇ。とっても偉い子ですぅ」


 酒で酔っぱらっているのか、ルイーナは今の話に涙を流している。と言うか女神って酔うんだな。


「ニャ!?ニャにお母さんみたいな言ってるのかなルイーナは!」


 良い子と言われてスズネは恥ずかしがっているようだ。まあ、それ女神だからこの世界の母って意味では間違ってないよな。


「良いんですよ恥ずかしがらなくても、ぐすっ、良い子ですねぇ」


 そう言ってスズネに涙ぐみながら抱き付くルイーナ。


「ニャ~っ!?ソ、ソルト!ルイーナを何とかして!」


 抱き付かれ、よしよしまでされるスズネ。無理に振りほどくような事はしてないが、流石に参ってるようだし助けないとな。


「よーしよしルイーナ、そこまでにしとこうなー?スズネ困ってるぞー?」


「そうなんですかぁ?ぐすんっ。じゃあやめておきますぅ」


 女神よ、けっこうな酔い方をしておられますな。


「ふみゃあっ!解放された……ソルト、ありがとニャ」


「いやいや、まあこれくらいはな。それにしてもルイーナが泣き上戸だったとは」


「どうするニャ?もう時間も遅いし、良ければあたしが宿まで案内するけど」


「マジか、助かるよ!」

 

 ルイーナがこの状態だと、この世界の事を知らない俺だけじゃ途方に暮れる所だったからな。幸い、スズネからもらったアイテムの内、ルビーの結晶を1つ売ったので宿代は確保できている。売る時の交渉もスズネにしてもらったし、この町に着いてからスズネに世話になりっぱなしだ。


「推しの頭が2つにぃ~、うえぇんっ幸ぜ~」


 だいぶ酔っているルイーナを介抱するのは一苦労だったが、その後俺達は何とか無事に宿へと辿り着いたのだった。

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