第5話 ダンジョンの主を倒す理由
俺達がウォッシュルームから元いたダンジョンに戻ると、ルームへ繋がる扉は淡い光を放って静かに消えていった。
「俺達が外に出ると扉が消えるのか」
「いつでもどこでもスキルで扉を呼び出せますから、ウォッシュルームに入りたい時はその都度召喚してくださいね。ちなみに扉はパーティーメンバーが全員ルームの外に出るまで出現したままになってます」
「おお、流石はスキンヘッダーを考えた本人。スキルの説明はお手の物だな」
俺がルイーナの説明に感心していると、目の前にガイドテキストが表示された。
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ガイドテキスト
『スキル取得条件、”一定レベル到達とウォッシュルーム使用”を達成しました。パッシブスキル【魅惑の頭】を取得しました』
□パッシブスキル
・【魅惑の頭】:敵モンスターのターゲットになりやすくなる。
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「おお……誰が考えたかすぐ分かるスキル名だ。これはモンスターの攻撃を俺に集中させるって事で良いのか?」
「はい!ソルトさんのスキンヘッドは、モンスターの視線さえも釘付けにしてしまいます!」
このスキル、パーティーを解散したら多分こいつにも有効だな。まあそれはさておき、これは俺が味方と一緒に戦闘するのにかなり便利だ。スキル100億倍によって敵モンスターの攻撃はほぼ確実に俺に集中して、そのまま【ダイヤヘッド】の反射でモンスターを倒せる。
「ちょうど良かった。これでルイーナを安心して守れるな」
ルイーナのHPは最大値は非常に高いが、俺と違ってダメージは受ける。だから出来るだけ俺が庇いながら戦うつもりだった所に、この味方を守りながら敵も倒せるスキルの組み合わせが手に入ったのはまさにちょうど良かったと思う。
「ソルトさんに守ってもらえる……!推しに……ふへへ」
すぐこうなるから隙が多くて心配なんだよなこの女神。
そう言っている間にも何体かのモンスターが現れる。でも全ての攻撃は俺に向かうし気にしなくても良いだろう。
「ゲギャp──」
「そう言えば、俺のステータスはこうやってお互いに見れてるよな?それならルイーナの詳細ステータスも見てみたいんだけど」
「キキキk──」
「え、私のですか?分かりました。少し気恥ずかしいですがどうぞ!」
スキルによる敵の引き寄せ効果はしっかりと発動し、モンスターは反射によって消し飛んでいく。ルイーナもモンスターを気にする事なく俺に自分のステータスを見せてくれた。
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ルイーナ ♀ 種族:神
職業:女神Lv7
HP 99999/99999
装備品
・手作りの魔道服
・ロングブーツ
・神木の杖
所持スキル
□パッシブスキル
・無し
□アクティブスキル
・【神託】:神託を授ける。
・【ヒール】:使用対象のHPを回復する。
・【キュア】:状態異常を回復する。
・【ファイアボール】:火属性の玉による攻撃を行う。
New!
・【サンダー】:電撃による攻撃を行う。
New!
・【プロテクション】:使用対象の防御力をアップ。
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「なんか魔法職って感じのスキルだ」
今消し飛んでいったモンスター達の経験値がパーティー内で共有されたためか、ルイーナがレベルアップして新しいスキルを取得している。それも含めて、スキルは全体的に女神と言うよりも、ゲームなどで良く目にする魔法を扱う職業のイメージに近い。
「そうなんです。女神としての力はほとんど地上に持ってこれませんでしたから、ウィッチと言う職業を参考にしてスキルを取得できるようにしています」
「なるほどな。と言う事はウィッチはパッシブスキルを覚えないのか?」
「そうではなくてですね……その、私がスキルを持っていないだけなんです」
ルイーナは前にも『事情があって強い干渉は出来なくなった』と言っていた。パッシブスキルについて言い淀んだのも、その事が関わっているのかもしれない。ただその事はあまり話したくない様子だ。
「そっか、見せてくれてありがとう。後衛でのサポートはよろしくな!」
「はい!ソルトさんのお力があれば十分だと思いますが、私も頑張りますね!」
出来るだけその事情を避けるように、俺は会話を進めた。
実際にルイーナのスキルが見れたのは今後のためにもなるだろうし、確認するのには良い機会だったと思う。あとは装備品の『手作りの魔道服』も物凄く似合ってるし気になるけど、それを直接言うのは恥ずかしいし、俺はここで話を切り上げて先に進む事にした。
◇◇◇◇◇
ルイーナの道案内によってダンジョンを進んでいく。俺達の今の目標は『ダンジョンの
「そう言えば、このダンジョンって言うのは一体どういう所なんだ?」
出口を目指す道すがら、俺は気になった事をルイーナに尋ねてみる。
「それにはまずマナの説明からしなければなりませんね。マナはこの世界や人々、そして様々な物に満ちている力の源です。マナはスキルを使う際にも必要な大切な力です」
「すごく重要な力なんだな。それって転生した俺の中にもあるのか?」
「はい、ソルトさんがこの世界に転生する時にもマナが使われていて、そのままあなたの力になっていますよ」
そうだったのか。俺がスキルを当たり前のように使えているのも、ちゃんとマナが体内にあるからって事か。
「そんな生命の源であるマナですが、同時にモンスターを生み出す原因にもなります。ダンジョンと言う場所は負のマナが集まりやすく、それによって凶暴なモンスターがたくさん発生してしまう所なんです」
「それって放っておいたら大変な事にならないか?」
「ええ、ですから今までは各地のダンジョンに、私が使役している精霊達に管理を任せていました。マナがこの世界にある以上モンスターの発生を無くす事は出来ませんが、ダンジョン内のマナを精霊がコントロールする事で発生を抑えられていたんです」
ルイーナの言葉は過去形だ。それは今は抑えられていないって意味じゃないか?
「今までは任せていたとか、抑えられていたって事は、今は精霊がいないとか?」
「精霊はまだいるんです。でも1年ほど前に突然現れた魔王が、ダンジョンの負のマナを利用して精霊達を暴走させてしまったんです。だから今は各地の精霊達が、モンスターを生み出す原因の1つになってしまっています」
少し悔しさの混ざる表情で、ルイーナは言葉を紡いでいく。
「それがダンジョンの
「そうです。私が精霊達に直接干渉する事は禁じられていて、元に戻してあげる事は叶いませんでした。ですからソルトさんのお力で、暴走した精霊を倒して解放してあげて欲しいんです」
少し話が見えて来た。世界を管理する女神としては、ずっとこの状況を何とかしたかったのだろう。
「つまり俺が暴走した精霊達とその元凶の魔王を倒せば、この世界を救えるんだな。任せてくれ!」
「はい!頼りにしています!」
少し表情の明るくなったルイーナ。こうやってしっかり女神してる時は本当に美人だ。
「そろそろ精霊のいる場所に着くと思いますので──」
「グルォォォ!」
ルイーナの言葉を遮り、何かの咆哮と衝撃音が聞こえた。
「なんだ?」
「きっと精霊が暴れているんです!急ぎましょう!」
ルイーナの先導によって、精霊がいる方へと走る。その間にも咆哮と衝撃は鳴り止まない。誰かが戦っているのか?入り組んだ道を数回曲がり、その先に大きな扉が見えて来た。すると、扉の向こうから数人が慌てて出て来てこちらへ声を掛けて来る。
「お前らも冒険者か?早く逃げろ!あれには敵わねえ!!」
「きゃああ!?この人髪がないわ!」
「なんだこいつは!?逃げろ!」
そう言って、冒険者と思わしき人物達は走り去っていった。
「……」
まあね、全ての人がフサフサの世界で髪が無い人がいたらそりゃあ驚くよね。
「ニャアっ!?」
まだ破壊の音は鳴り止まず、扉の向こうから誰かの悲鳴が上がる
「誰かいるのか!」
俺達が中に入り目にしたのは、精霊と思われる赤い龍と戦っている人物が吹き飛ばされ、そのまま倒れこんでしまう瞬間だった。しかし赤い龍は攻撃を緩めずに、口に火炎を溜めて倒れた人物に狙いを澄ましていた。
「グルルァァ!!」
「危ない!!」
俺は倒れた人物の前に躍り出て、その身を庇い龍の火炎を背中で受ける。これでダメージを反射して龍を倒せるはずだ!
「グルル!?」
しかし、龍は消し飛ばなかった。俺は確かに攻撃を防いだはずだ。【ダイヤヘッド】の反射が効かなかったのか?
攻撃を防がれてこちらを警戒する赤い巨体を見据える。龍の額にはさらに赤い宝石が輝いており、特別な存在である事を示しているようだった。
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精霊龍ルビードラゴン Lv150
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「ソルトさん!精霊は暴走しててもモンスターじゃないんです!ダメージを反射する事は出来ません!」
「マジか!?」
【この世界の判定】
女神ルイーナ ←モンスター扱い
暴走した精霊龍←精霊扱い
って事?……それよりも今はあの精霊龍の討伐だ。反射こそ出来ないが、向こうの攻撃は防げるのは分かった。そして今の俺には精霊に対抗する武器がある。その武器とは、とある1名の狂信的なファンのおかげで自信へと変わった、俺の自慢のアイデンティティだ。
「反射出来なくても、今の俺には武器がある。俺の自慢の頭が!ルイーナ、ここにいる全員にプロテクションを掛けてくれ!」
「分かりました!【プロテクション】!!」
ルイーナの髪が光り、この場にいる3人に防御アップのスキルが掛かる。これで万が一の衝撃にも安心だ。意を決した俺は赤く輝く龍へと駆け出し、対する龍はこちらに応戦するかのように右の前脚を振り上げる。その鋭い爪がお前の武器か。
「良いぜ。勝負だ」
待ち構えていた爪が振り下ろされ、俺はそれに頭で全力でぶつかりに行きスキルを発動させる。
【ヘッドバット】!!
「グルルォ──」
俺の威力100億倍の頭突きが、凶悪な爪を打ち破り赤い精霊龍を消滅させる。その衝撃は部屋全体を揺るがし、攻撃の方向にあった天井に穴を開けてしまった。
「ソルトさん!大丈夫ですか!?」
ルイーナが駆け寄ってくる。俺を心配してくれていたようだ。
「大丈夫だ。ありがとう」
「こちらこそ、
「うん。ところで精霊がいなくなったダンジョンってこのままで良いのか?」
消滅した龍の残滓が、天井の穴から漏れる日の光に当たりキラキラと舞う。それを見て、ダンジョンをコントロールしている精霊を消してしまったのだと自覚して少し不安になった。
「良いんですよ。精霊はマナがある限り、時間をかけて復活する事が出来ますから。──ルビードラゴン、辛かったでしょう。まずはゆっくり、お休みなさい」
ルイーナはルビードラゴンであった光の粒子を見つめ、慈しむように祈る。その姿はまさに、この世界を愛する女神そのものだった。
「んん……んにゃ……」
俺がその光景に見惚れていると、俺達より先に精霊龍と戦っていた人物が起き上がって来た。龍の攻撃が直撃していたようで、立つのがやっとと言う様子だ。
「無理はしないで下さい。今回復します。【ヒール】!」
回復スキルを唱えたルイーナの金色の髪が光り、辺りが癒しの光で満ちていく。負傷した人物を包み込んだ癒しは、傷を瞬く間に治していく。
「ふー、生き返った!ありがとニャ!」
ヒールによって元気を取り戻した女性は、独特の語尾でルイーナに感謝を述べている。見ればその頭には猫のような耳が付いており、身軽そうな服装の腰の辺りから尻尾がのぞき見えた。
「そっちの髪の無い人も、助けてくれてありがとニャ!キミはもしかして、女神の神託で言われてた輝きの勇者って事で良いのかニャ?」
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スズネ ♀ 種族:猫獣人
職業:シーフ Lv58
HP 380/410
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その猫獣人の女性は、俺を輝きの勇者と呼んだ。
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