第57話 数秒間の甘いキス

 荷物からバスタオルを取り出し、駆け足で海へ戻った。

 倉片さんは肩まで浸かって海で身を潜めていた。よし、あれなら見られる心配はないな!


 まだ男共が伊勢崎さんに群がっている間に、倉片さんの元へ。


 ……よし、見つけた!



「おーい、倉片さん!」

「キョウくん!」


「はい、これ」


 バスタオルを渡し、身に着けてもらった。違和感があるが、幸いにも男共は向こうでワイワイしとるし。

 この周辺は家族連れは、ほとんどおらずカップルが多め。なので、それほど周囲の目はこちらに向いていない。


 直ぐに海から出て倉片さんはサーフビレッジの更衣室へ向かった。俺も着替えに向かった。


 先に着替え終えた俺。

 あとは倉片さんを待つのみ。……ふぅ、なんとかなったな。危うくナンパ野郎共に倉片さんの裸を見られるところだったぜ。



 数分後。倉片さんと合流。

 可愛らしい地雷系っぽい服だ。うん、本当によく似合う。



「お待たせ~」

「おう。じゃ、江の島へ行こうか」


「そういえば、伊勢崎さんはいいの~?」

「大丈夫じゃないか。男にモテモテで嬉しそうだったし」



 飯を奢ってもらっていたようだし、美人は得だね。

 邪魔しちゃ悪いし、二人でデートしたいので江の島へ向かう。


 少し歩いて江の島弁天橋を歩いていく。

 建物が見えてきた。

 観光客もそれなりにいるな。


 自然と手を繋ぎ、山へ向かっていく。



「ねえねえ、キョウくん」

「ん?」


「あの白い塔ってなんだろう」

「ああ、そこへ向かうんだ。江の島シーキャンドルと言って展望台なんだよ」


「へー、知らなかった!」



 どうやら、倉片さんは初めて江の島に来るらしい。という俺は一回、アニメの聖地巡礼で来た程度だけど。

 なにげに江の島はアニメの舞台になっているんだよな。それも複数。


 階段を上がっていく――のはキツイので『屋外エスカレーター』でサクっと上へ。



「楽ちんだろ~」

「すご、こんなエスカレーターあるんだね」


 数百円で一気に頂上まで行けるので払う価値はある。なにより疲れないしな。


 ぐ~んと上がって地上。

 江の島シーキャンドルを目指した。


 歩いて数分――到着。



「ここだな!」

「わぁ~、高いね!」



 500円を支払い、入場。

 これまたサクっと最上階の展望台まで上がっていく。途中からは階段になり、さすがに高さがあって怖くなってきた。高所恐怖症にはキツいな。

 自然と手を繋ぎ恋人のように歩いた。


 そして、ついに展望台にたどり着いた。


「ここを見せたかった」

「へー! 江の島全体が見渡せるね~」


 展望台から望む風景。街並みが見渡せた。今日は天気がいいから最高の眺めだな。



「こっちの方、人いないし……ゆっくりできそうだ」

「そうだね」


 手を繋いだまま隅の方へ寄って風景を楽しむ。

 けれど倉片さんは俺に寄りかかってきてボディタッチを――。


 ……おぉ。


 こんなところでっ!



「えっと……」

「高いの怖くてっ」


「って、そっちかよ」



 なんだ、てっきりヤらしいことをしてくるのかと。単にこの高さで立ち眩みを起こしたらしい。

 でもいい。これだけ密着できて俺は幸せだ。



「だって~…」



 恐怖心を取り除く方法。

 それはキスしかないだろう。


 俺は倉片さんの唇を数秒間奪い、落ち着かせた。



「どうだ?」

「……ちょ、人前でっ」

「減るもんじゃないしイイだろう」


「恥ずかしいし!」



 ぷんぷんと可愛く怒る倉片さん。うん、本当に可愛い。

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