第53話 倉片さんの性事情

 倉片さんの住むというメイド喫茶に正面から――ではなく、裏から入った。

 狭苦しい通路を歩いてようやくたどり着いた裏側。そこには寮らしき部屋がいくつかあった。


「ここが部屋なのか」

「うん。オーナーの住み込み用の部屋だね」


 へえ、そういうのあるんだな。

 オープン当時は、この一号店しかなかったものだからオーナーも必死だったらしい。住み込みしながら経営していたとか。

 そのため、寮のような部屋があるわけだ。

 今もオーナーは住んでいるようだが。

 その隣のが空き部屋だったので、倉片さんが使っているようだった。


 階段を上がっていく。

 ほぼアパートみたいな感じだな。

 俺の住んでいたボロアパートに似ている。



 倉片さんは扉を開け、中へ。

 俺も続いていく。



「お邪魔します」

「どぞどぞ」


 玄関の中へ入った瞬間には、良い匂いがした。とても香りの良い芳香剤ほうこうざいだな。

 数秒歩いて直ぐに部屋にたどり着いた。


 まさかの1Kだった。

 いや、ワンルームよりはマシかもしれない

 俺がいたところは、まさにワンルームだったからな。生活感が半端なかったが――1Kはキッチンが別室なので、落ち着きがあるな。


 というか、非常に女の子らしい部屋だった。

 衣類やコスメがチラホラと。

 可愛らしい人形も飾られている。うん、いいね。


「へえ、俺の住んでいた部屋よりいい」

「そうなの?」

「俺はワンルームで雑魚寝ざこねしていたからね」


「凄い生活だね。あ、座って! お茶淹れてくるから」



 俺は、もふもふのカーペットに腰掛けた。

 手触り最高~とかやっていると、指になにか触れた。


 ん、なんだこれ。


 それを摘まんでみると、不思議な形をしたオモチャっぽいものだった。



「???」



 首を傾げているとお茶を運ぶ倉片さんが現れた。



「お待たせ――って、それ!!」



 俺が手にしているオモチャを見て倉片さんは、一気に赤面する。……へ、これってまさか。



「あ……」



 呆然としていると倉片さんは、俺からオモチャを奪い取った。

 そうか、なるほど。


 倉片さんも一人でするんだな…………。



「…………うぅ」



 涙目になってしまう倉片さん。すげえ恥ずかしそうだ。

 そりゃ、そうだよね。

 まさか部屋に放置したままだったなんてね。


 まあでも、完全なプライベート空間ではシたくなるよな。男のほとんどはたしなんでいるものだし。しかし、こんな美少女でもするんだなぁと俺は意外だった。



「ひとりでするんだ」

「ちょ! ハッキリと言わないでよぅ」


「女の子はあんまりしないと思った」

「だ、だって……気持ちいいし。キョウくんのこと考えながらすると…………凄くて」



 語尾がだんだん弱弱しくなっていた。てか、俺を想像してだと!?



 ちょ、ちょちょちょ……!



 それはまたビックリというか、こっちまで顔が熱くなってきたゾ。



「へ、へえ。倉片さん、本当にえっちな女の子なんだね」

「も~! キョウくん限定だからねっ!」



 誤解しないでよと強く抗議してくるが、俺は苦笑するしかなかった。いやもう何もかもが嬉しいね。

 お茶を受け取り、俺は万感ばんかんの思いですする。



 茶がうめえええええええ~~~ッ!

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