第43話 キスくらいならいいよね?

 尾行びこうを警戒しながらも、夜の街を歩く。

 ホテルでは、また狙われる心配もあった。


 どうしようか考えていると、ふと『カラオケ店』が目に入った。



「そうだ、カラオケの個室でどうかな?」

「いいね! ついでに歌えるし」


 しかも、ネカフェと併設されているからシャワーも使えるようだ。有料だが、料金はそれほど高くない。アリだな……!


 カラオケの料金なら、しかも三時間いても二千円以下だ。


 決まったところで、受付へ向かった。

 会員登録を済ませて――空いている部屋を借りた。



「俺、カラオケとか二回目、三回目かな」

「キョウくん、あんまりこないんだ?」

「うん。曲は聞くけどね。ちなみに、ほぼヒトカラさ……」


 悲しいかな、一緒に行ってくれる相手などいなかった。だけど、今なら違う。倉片さんがいる。女子と一緒にカラオケ……最高だな。


 303号室へ向かった。

 ちなみに『BOYSOUND』という、アニメ曲が多く入っているカラオケ機械のある部屋になった。


 ――と、その前にドリンクだな。


 フリードリンク付きで、ありがたい。


 俺は冷たいコーヒーを、倉片さんはシンジャーエールを注いだ。


 カップを持ちそのまま部屋へ入出。


 小さな部屋だが、二人なら十分広い。問題なくくつろげる。



「まずはゆっくり楽しもうか」

「そうだね! いろいろ歌って楽しもう」


「おう」


 たまには、こういうデート気分も悪くないな。

 いろいろあっただけにストレス発散になるし、ちょうどいい。


 タブレット端末を拾い、曲を選んでいく。


 倉片さんは、どうやらアニメ曲を入れているようだ。そういえば、配信で見ているとか言っていた気がするな。


 ――という俺も、似たようなものだが。


 その後、歌いまくって嫌なことは全部忘れた。

 意外にも盛り上がり、三時間もカラオケに興じてしまった。


 腹が減ったので明太ポテトを注文して摘まんだ。


 少し休憩して――時刻が深夜一時であることを確認した。……だいぶ、経ってしまったな。


 ソファに寝転がっていると、倉片さんがおおいかぶさってきた。



「……キョウくん」



 求めるように俺の名を口にする倉片さんは、小顔を俺の胸に埋めた。なんて可愛い。まるで猫のような愛らしさがあった。


 そして、少し顔を落として俺のズボンに手をかけた。


 チャックを降ろして……俺の既に変貌へんぼうを遂げている“偉大なる不動明王アンチマテリアルライフル”へ突き進む。



 あぁ……これは、もう…………。



 幸せの絶頂の中、急に扉をノックする音が響き――倉片さんは驚いて身を引いた。俺もビックリして直ぐにチャックを降ろす。



 な、なにごと!?



 まさか、また織田の刺客か何かか……?


 しかし、それ以降は無反応だった。な、なんだろう。店員の無言の警告ってところかな。そういえば、窓の隙間から見えなくもないんだよな。


 う~ん、やはりカラオケの部屋では無理がありそうだな。



「倉片さん、ここではゆっくりヤれそうにないね」

「そ、そうだね。びっくりしちゃった」



 軽くスマホで調べてみたら、監視カメラが設置されている店舗もあるようだった。場合によっては通報されることもあるとか。……知らなかったぜ。


 幸い、このカラオケ店の各部屋に監視カメラはないようだ。

 ということは店員が隙間から見て発見。ノックで警告ってところかな。


 残念だが、また明日にしよう。

 今日のところはカラオケを楽しむ。


「仕方ないか~」

「うん……。でも、キスくらいならいいよね?」


 目を閉じ、唇を突き出す倉片さん。そうだな、これくらいは許してくれるよな。

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