第41話 プライベートでラブホ

 体の全身をまさぐったが、ケガひとつない。

 それは倉片さんも同様だった。


 もしかして、織田の撃った銃は……ニセモノ?



「おい、織田!」

「ビックリした? そう、これは音だけ鳴るオモチャさ」



 床にオモチャの銃を投げ捨てる織田。それは駄菓子屋とかで売っていた火薬だけが破裂する玩具トイガンだった。


 なんだよそれ!



「あはは。騙されたね!」

「……人をおちょくってんのか!」


「ま~、一応これでも人を騙す仕事をしているからね」

「この詐欺師が!」


「そうだね。事実さ」



 なんてヤツだ。どこまでも人を馬鹿にしやがって。

 だが、銃がオモチャと分かった以上は反撃が出来る。俺は催涙スプレーを取り出し、握った。



「織田だあああああッ!」


「……!? なにを…………わっ!」



 容赦なく催涙スプレーを吹きかけてやっ――って、違う。この悪臭は『ウ●コスプレー』じゃないか! 間違えた!!



「げえ! くっさ……!」

「ちょ、キョウくん。これはヤバイ!」


 倉片さんがすでに身を引いていた。

 俺は直ぐに倉片さんの手を握り、外へ脱出。扉を閉めて背中で押した。織田が出て来れないように。


 中から『ガンガン』と必死に扉を叩く織田は、嗚咽おえつしながらも叫んだ。



『な、なんだこれは! ヒドイ悪臭だ……ごほっ! ごほっ! キョウくん、ヒドイじゃないか!!』



 脱出を試みてくるが、俺は必死に閉じ込めた。その間に、倉片さんには警察に電話してもらった。これで捕まえられるぞ……!!



「今お前の顔面に吹きかけたのはウ●コスプレーだ!」

『な、なんだって!? そ、そんなものを!!』



 途端に静かになり、俺は様子を伺った。

 すると直後には凄い音がして、のぞき穴から弾丸らしきものが飛び出してきて、俺の頬をかすめていった。



「うわぁ!?」



 今のは“本物”の銃じゃないか!?



『よかったよ。一応、本物の銃を持っていて!』



 コイツ、やっぱり銃を持っていたんだな。俺たちをからかって、最後には本物の銃で脅すつもりだったんだ。だが、それは阻止そしされた。

 運が良かったとしかいいようがないが。



 バン、バンと何度も撃ってくるが頑丈な扉にはばまれていた。よかった、貫通はしてこないようだ。



「キョ、キョウくん。今警察くるって!」

「助かったよ、倉片さん!」



 俺は扉を押さえつけ、警察の到着を待った。




 五分後。




 複数台のパトカーが到着し、警察官が該当の部屋へ突入。

 さすがの人数に織田は抵抗できず、暴れる様子もなく……あえなく御用。捕まった。



「…………」



 さっさと海外へ逃亡していればよかったものを。いや、これで良かった。捕まえられて、むしろこっちとしてはありがたかった。



「織田、お前はなにがしたかったんだ?」

「強いていえば“娯楽ごらく”かな。でも大丈夫。日本の法律は甘いからね~。また保釈されて出てくるよ」


 にんまり笑う織田。反省の色ナシ。

 世の中そんなに甘くないと思いたい。

 しかし、過去のニュースを見ていると、どうしても織田の言う通りにも聞こえてしまう。保釈……カンベンしてくれよ。



 ◆



 事件の捜査は警察に任せた。


 俺と倉片さんは、念のためで病院へ。特に異常もなく、入院する必要もなくて帰宅となった。


 事情聴取もしつつ、帰る頃には夜になっていた。



「…………ふぅ」

「疲れたね」



 夜道を歩いている中、倉片さんは疲労をにじませていた。



「どうする? もう仕事する気分じゃないな」

「そうだね。たまにはプライベートでラブホいこっか」


「え」


「嫌なの?」

「ぜんぜん! そうだな、たまには仕事のことを忘れて……いや、全部忘れてヤっちまおう」


「うんうん!」



 いろいろありすぎた。本当にいろいろ……。

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