第40話 ヤンデレ?な織田の告白

「織田、お前……!」

「ふふ。まさか倉片を連れてくるなんてね。二人はお似合いだ」


 どういうことだ。どうして国外逃亡せず、このボロアパートの中にいるんだ……?


 こんなところで悠長ゆうちょうにしていれば、警察に捕まるだろうが。その前に俺が捕まえるが。



「あの、織田さん。どうして詐欺なんて犯罪を……」


 不安気に質問を投げる倉片さん。

 それに対し、織田は微笑む。なんでそんな余裕があるんだ、コイツ。



「そりゃ、日本で暮らしていく為だよ。今この国は『闇バイト』であふれているからね。やりやすいのさ」


 ……なんてヤツ!

 それが本音なら、俺はコイツを許せそうにない。いや、許せん。

 裁きを受けさせねばならない。


「織田、倉片さんから奪った金を返せ。会社の売り上げもな」

「……お金はもうないよ」


「なに?」


「全部、海外へ送金済みだからね。返そうにも返せないのさ」


 得意げに話す織田。じゃあ、なんの為にアパートに残っているんだ。意味が分からない。


「それでも返せ」

「残念だけど、それは出来ない」

「なんだと……」


「私は最後にキョウくん、君に会いたかったんだ」


「……俺に?」



 こくりと静かにうなずく織田は、懐から拳銃を取り出した。……ま、まさか本物か!? 日本の警察が使うような銃にソックリだ。



「……織田さん」



 さすがの倉片さんも身構えた。

 くそう、向こうは銃。こっちは護身用のスプレー武器しかない。これでは勝てないか……?



「キョウくん。私と来るんだ」

「どこへ行くつもりだ? 今さら海外逃亡なんて出来ないだろ」


「大丈夫。仲間の船で外国へ逃げるからね」



 ……なるほど、マフィアの仲間ってところかね。それとも闇バイトか。なんにせよ、ロクでもない連中なのは確かである。


 こんなヤツに関われば、俺は犯罪に手を染めることになる。……アホか!



「くだらん! 俺は倉片さんと一緒にいる方がいいんだ。日本で一生を過ごす。なぜ、わざわざ危険なことに首を突っ込まなきゃならん」



 織田は危険だ。コイツは裁かれるべきなんだ。

 金も返してもらわねば困る。

 倉片さんを幸せにするためにも。



「そうか。じゃあ、死んでもらうしかないようだね……!」



 カチリと音を立てて俺に銃口を向けてくる織田。お、おい……本気かコイツ。いくらなんでも、こんなところで発砲すれば音で気づかれるし、大事件だぞ。しかも、都内で。


「止めとけ」

「どうして? 手に入らないなら、君を殺すしかない」

「おいおい、織田。お前って俺のことが好きなヤンデレだったのか?」


「……っ。そうだよ、私は君が好きだった。だから、このボロアパートを提供してあげたのさ」


「マジで?」



 それは意外だったな。織田が俺のことが好きだったんて……。



「でもね、その女。倉片とデキてるって知って……絶望したよ」

「そうだったのか。でも織田。お前はそんな素振り見せなかったじゃないか」


「わずかな時間だったけど、一緒に暮らしたじゃないか」


「いや……当時はお前が男だと思っていたからな」

「だからさ、余計に辛い」



 近づいてくる織田。……そればかりは俺の未熟さ故だが、しかし逆恨みもいいところだ。俺は別に織田に恋愛感情なんてなかった。そりゃ、今となっては女と分かって可愛いと思うところもあるが。


 だが、それ以上に詐欺は許せん。


 俺はポケットに忍ばせたウ●コスプレーに手を伸ばす。

 小声で倉片さんに言った。



「いざとなったら逃げるんだ」

「……キョウくんは?」

「俺が盾になってやるさ」


「そんなの嫌だよ! 一緒に逃げよう」


「いいんだ。倉片さんが生きていてくれるのなら」

「やだよ。キョウくんと一緒じゃないと……!」



 後退していくが、織田は銃を向けたままだ。いつ撃たれてもおかしくはない。



「なにをヒソヒソやっているのかな」

「織田、頼むから金だけは返してくれ。あとは関与しない」


「……あは。あはははは!」



 織田は不気味に笑う。ダメだ、コイツは……!



「なにがおかしい!」

「だってさ、キョウくんはここで死ぬんだらね……!!」



 引き金を引く織田。



 バァンと銃声がして――俺は…………。




 ………………っ!




 ウソ、だろ。



 撃たれたのか、俺……。




 とっさに胸を押さえた。痛みは――ない。


 ん……?



 確かに銃声はしたはず。ということは俺ではなく、倉片さん?



「倉片さん!」

「……キョウくん? わたしは平気だよ?」



 え……?



 じゃあ、織田の撃った弾はどこへ……?

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