第39話 一緒にアパートへ

 スマホに連絡があり、倉片さんも合流することになった。

 小向さんに別れを告げ、俺は大学を後にして再び駅へ。


 駅へ到着すると、ちょうど姿を現した。



「あ、キョウくん! こんなところにいた~」

「ごめんごめん。織田を探していたよ」

「見つかったの?」


「いや、手がかりは得られたくらいだ」



 俺はまだ織田が日本にいるかもしれないことを話した。可能性はまだ十分にある。

 警察が気づいて警戒しているのなら、国外逃亡も難しくなっている頃合いだ。だとすれば、あと脱出するとしても船くらいか。

 それしか思い浮かばないが、他にも手段があるのだろうか。

 ないと思いたい……。



「アテがあるなら、その場所へ向かう?」

「ああ、そうだな。倉片さんは……」

「一緒に行く」


 そう、強い意志を示す。そうだな、一緒にいる方が返って安全だ。

 ならばと同行してもらうことに。



「これから織田の借りていたボロアパートへ向かう」

「そこってキョウくんが実質住んでいたっていうアパートだっけ?」

「そうだ。織田が借りていた部屋だ。つい最近まで俺が住んでいたが……」



 もう三日は帰っていないような気がする。なので、あれ以来どうなったのか不明だ。帰っても俺の荷物すらないかもな。

 ただの空き部屋になっている可能性の方が高いだろう。


 しかし、それでも向かってみる価値はある。


 なにかしら痕跡こんせきが残っているかもしれない。


 隣の駅まで向かい、アパートへ歩いて向かう。


 果たしてどうなっているやら……見当もつかない。



 駅から数分ほど歩いて――到着。




「ここがキョウくんの住んでいたアパートなんだ」

「ボロいだろう。都内では最安値らしい」



 俺が家賃を払っていたわけではないけどね。織田のおかげで住む場所には困らなかった。……ただ、あの時はアイツを“男”だと思っていたからな。

 思えば、あの時の時点で女の子と同棲していたようなものだな。たったの四、五回程度の話だけど。それでも十分だ。


 階段を上がり、二階へ。


 ここだ。この隅の部屋こそ俺が住んでいた場所だ。



「な、なんだか……凄い雰囲気だね」


 そこら中、ホコリやらサビだらけだからな。カビもちょっとあるかも。とにかくボロい。階段なんかいつか外れて事故りそうなレベルだからな。


 さて、さっそく開けてみるか。


 カギは植木鉢の下にあると知っている。だが、まだあるか分からない。


 持ち上げて確認する。



「……お、まだあった」

「それ、部屋のカギなんだ」

「ああ、織田が気を使ってここに仕込んでいてくれたんだ。スペアキーだけどね」



 忘れていたのか、それとも帰ってくる気がなくてそのままなのか。なんであれ、これで部屋の中へ入れる。


 カギを差し込み、扉を開けた。



 ガチャっと音がした。



 ゆっくりと扉を開くと、そこには――。




「…………」




 畳のど真ん中で立ち尽くす織田の姿があった。……なッ、いたのかよ。




「織田!」

「ようこそ、キョウ。君なら必ず追ってくると思っていたよ」



 流暢りゅうちょうな日本語を話す織田。まてまて、お前はカタコトだったはず。なんぜそんな普通に話せるんだよ。今までのも偽りだったってことか!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る