第37話 倉片さんと買い物へ

 倉片さんのテクニックはプロ顔負けのレベルに達していた。

 す、すごいサイクロンだったぜ……。

 舌を自由自在に操り、俺を翻弄ほんろうした。


 おかげで頭は真っ白。なにも考えられない――けど、考えた。


 天国タイムの間にも、動画のアップロードが完了。

 すでに数千ほどの再生数がついていた。早いな!


 おかげで広告収入が期待できる。



「これであとは待つだけ」

「ありがとうね」

「いいんだよ、倉片さん。この広告料で借金を返済しよう」

「うん! キョウくんのおかげで首の皮一枚繋がったよ」


 早くても結果が出るのは明日以降。三日は様子を見た方がよさそうだな。サイトが海外というこもあり、海外時間で判定されるからなぁ。

 それに、ドルだから為替レート次第なところもある。

 頼むから、ドル円が悪化するようなことだけはカンベンな。



「もう夜か。俺は織田を探しにいこうかな」

「こんな夜に? 今日はいいんじゃない?」

「んー、そうだな。明日からにするか」



 無理をしても仕方ない。それに夜道は危険だ。いきなり背後から刺客が現れないとも限らない。織田が本当にマフィアのボスの娘なら……ありえる。


 ああ、そうだ。護身用の武器くらい買っておくか。


 検索してみると、都内には護身用武器を販売している専門店がいくつか存在する。明日、先に自衛のための武器を購入しておくか。



 ◆



 次の日の朝は、アラームで目覚めてすっくと立ちがった。

 まずは武器を買いにいかねば。


 倉片さんと共に職場のマンションを飛び出し、スマホのナビを頼りに歩いていく。



「自衛は大事だよね!」

「ああ、今は闇バイトが流行っているせいで護身用武器を買う人が後を絶たないらしい。人気なのはT字棒の“さすまた”だね」


 連日ニュースになっている闇バイト。強盗をする者も多いので、心配になっている家はバットや木刀ぼくとう竹刀シナイやら置いているところもあるんだとか。


 街中を歩くと小さな店舗が見えた。細長い雑居ビル。その二階に『防犯グッズ店』はあるようだ。


 階段を上がっていく。

 扉を開けるとすぐに透明なケースがずらり。


 おぉ、こんなに!


 スタンガン、さすまた、警棒、メリケンサック、催涙さいるいスプレー、手錠、盗聴器発見機、防弾ベスト、タクティカルペン、マイオトロンまであった。



「防犯グッズってこんなにあるんだ。知らなかったよ」



 倉片さんは目を白黒させた。俺自身もこんなあるとは思いもしなかったな。どれも合法的に使える武器ばかりを取り揃えているようだ。

 無闇に使えば捕まるだろうが、自衛の為だから大丈夫だ。



「そうだ。倉片さん、催涙スプレーくらいはもっておこうよ。痴漢撃退で持つ人も多いし」

「へ~! そうだね。たまーにだけど電車に乗ると触られるし~」

「マジで? ガチの痴漢かよ」

「もちろん、捕まえて突き出してるけどね!」



 都内はそこそこいるからなぁ……。

 しかし、倉片さんも狙われるんだな。――いや、そうだよな。こんな美少女が電車の中で立っていれば我慢できないよな。……いや、ダメだろ!


 男の俺には分からん悩みだ。実際、めちゃくちゃ怖いらしいが……。

 ああ、でも男でも痴漢される場合があるらしいな。


 ともかく。



「ついでに買うよ」

「ほんとー! ありがとっ」



 その笑顔でお釣りがくるね。


 ――さて、俺はどれにしようか。



 様々な商品を吟味ぎんみしていくが、しっくりこない。

 棒モノは目立ちすぎるし、確実に職質されるだろうな。


 メリケンサックがカッコイイけど、使いこなせる自信がない。そもそも、相手が格闘術に長けていたら勝てないし。



 やはり無難な催涙スプレーかな。



「決めた。スプレーにする」



 手に取ると女性スタッフの人が笑いをこらえていた。……ん、なんだ?



「あ、あのお客さん。それ催涙スプレーではなく、ウ●コの臭いスプレーです……ふっ」



 え、これが!?

 てか、そんなのもあるのかよー!!


 嫌がらせレベルのスプレーだが……いや、案外アリかもな?



 両方買っておくか!



 俺は催涙とウ●コの臭いスプレーの両方を買った。倉片さんの分の込みで。

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