第36話 ご褒美に口で
伊勢崎さんはショックで倒れた――というか横になっていた。悪夢に
俺はいったん、編集部屋へ戻った。倉片さんが気になったからだ。それに、織田(ラッキー)のことを話さねばならない。
……可能性の話だけど。それでも、共有しておかねば。
部屋に入ると倉片さんがちょうど起き上がっていた。
眠たそうに目を
「おはよう。倉片さん、大切な話があるんだ」
「……? どうしたの、キョウくん。なんか顔が怖いよ?」
別れ話でも切り出されるんじゃないかと思っているのか、倉片さんは妙に悲しげだった。いやいや、そっちじゃない。
「実は……君が受けた詐欺事件のことなんだけど……」
「え?」
織田のことを詳しく話した。昨日から行方不明で音信不通であること。会社の金を持ち逃げしたこと。日本国内で詐欺を働いていたこと
そして、その詐欺事件のひとつが倉片さんに関わっているかもしれないことを。
「――というわけだ。被害を受けた可能性が高い」
「そんな……。織田さんが? 信じられない」
だろうな。あんなボーイッシュの金髪娘が犯罪に手を染めるだなんて思わん。だが、犯人は織田で間違いない。
あの女は、多くの人たちを
「昨日の売り上げも奪われたらしい。伊勢崎さんは恐慌状態だよ」
「なんてこと。酷いわ」
せっかくウン千万という大金が転がってくる予定だったのに、織田の手によってそれは幻と消えた。アイツが全て奪っていった。
「すまん。借金、払えないな……」
「ううん、いいの。織田が悪いんだから」
「せっかく何とかなると思ったのにな」
「責任感じなくていいよ。それにほら、また二人でえっちな動画を投稿すればいいじゃん。で、稼ぐの!」
ポジティブにそう提案する倉片さん。本当は辛いはずなのに。
でも、それが近道でもある。
俺たちにはそれしか方法がない。
莫大な借金を返済する為にも。
とりあえず、動画のストックはある。SMのヤツが。あれを投稿すりゃいい。
「織田の件は基本的には警察に任せるが、でも俺も探すよ」
「無理しないでね」
「大丈夫。あの女をとっつ構えて、せめて倉片さんが過去に受けた分だけでも取り戻すよ」
「うん、ありがと。キョウくん、ほんと
嬉しかったのか、倉片さんは俺の頬にキスをくれた。ちゅっとされ、俺は心臓が高鳴った。……ぉ、嬉しい。やる気でまくるぞ、これは。
おかげでガス欠寸前だった俺の心は、ガソリンを得てフルパワーになった。これなら、しばらくは走れるな。
今は編集に専念しよう!
そうだ、新しい動画を投稿してまた稼げばいいのさ!
だから俺は、昨晩撮った映像をメモリカードから移動してパソコンへ取り込んだ。編集ソフトを立ち上げ、さっそく編集していく。
ひとつひとつカットしたり、繋げたり……映像をチェックしたりする。
この作業がとても大変だ。
だが俺は倉片さんの為なら本気になれるのだ。エナジードリンクを補給しながらも、俺は編集を続けた――。
必死になって動画編集を続けると、日が傾き始めていた。
「……もうこんな時間か」
手足が
俺の休憩を察した倉片さんがやってきた。
「おつかれさま。ありがとね」
「構わないさ。倉片さんも動画チェックはしてくれてるし」
「これくらいしかできないから……」
さきほどからノートパソコンで動画を見直してくれていた。恥ずかしそうに。
そうだな、自分の裸体を動画で見るとか……なんか妙な感じだ。だが、俺はもう慣れたというか、感覚がマヒしていた。
もうここまで来るとマンネリした夫婦のえっちのような作業感しかなかった。そのおかげででもあるが、動画は完成しそうだ。我ながら早くできたものだ。
「よし、あと少しだな」
「すごいね、キョウくん。天才だよ」
「そんな褒められても……嬉しいよ」
「ご褒美に口でしてあげるねっ」
俺の股に顔を落とす倉片さん。ちょ、突然だな! めちゃくちゃ嬉しいけどね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます