第34話 一番の理由

 時間が無限にあったのなら、俺はずっと倉片さんを愛し続けていたと思う。


 しかし残念なことに朝を迎えていた。

 記憶がぶっ飛ぶほどのプレイを続けていた。

 おかげで、ほとんど覚えていないが――けれど、幸せだったことは間違いない。

 それに撮れ高は十分だ。


 何時間と撮影してボリュームたっぷり。これなら、しばらくストックに困らないだろう。しかも、SMときた。映像的にもなかなか映えるぞ、これは。



 簡易ベッドで横になる俺と倉片さん。現在、裸のまま抱き合っていた。



 寝息を立てて眠っている倉片さんは、たまに寝言を漏らしていた。……なんと言っているか分からないが。



「……可愛い寝顔だ」



 ずっと眺めていたい。そう思ったが、眠気がヒドイ。

 俺もそろそろ夢の世界へ。



 ◆



 そういえば、まだ“一番の理由”を聞いていなかった。

 そうだ。

 倉片さんは三つも理由があると言っていた。それを聞こうとしたら、電話によって遮られてしまったのだった。

 完全に忘れていたぜ。


 二時間ほどの仮眠後、チェックアウトの時間が迫ってきた。


 朝シャワーを浴びてきた倉片さんは、私服に着替えて俺の前に立った。



「どうしたの?」

「あー…、いや。そういえば、一番の理由を聞いていなかったなって」


「そうだったね」


 思い出したかのように倉片さんは手を鳴らす。

 本人も忘れていたらしい。



「改めて教えてくれないか」

「うん。分かった。でも外でいい? ここだとちょっと……」



 確かにここはSM部屋だしな。そういう真面目な話を聞くに相応しくないというか、場違いすぎるな。


 ホテルを後にして外へ。

 そういえば、なかなか距離のあるホテルであることを思い出した。タクシー使ってきたんだっけ。


 再びタクシーを予約して、その間に理由を聞くことに。



「――で、理由なんだが」

「分かった。言うね」


「頼む」


 コホンと咳払いする倉片さんは、ついにその一番の理由を打ち明けてくれた。




「一番の理由はキョウくんだよ」


「え……?」




 思わず、俺は聞き返した。


 俺?


 ほわい?



「まだ分かっていないんだね」

「あ、ああ……」


「ずっと前からキョウくんのこと追っていたんだよ。高校の時から気になってた」

「マジで?」

「立ちんぼも、ああすれば会えるかなって」



 衝撃的な事実を知り、俺は頭がどうかなりそうだった。倉片さんは、はじめから俺に会うために……?


 なら、気持ちは“両想い”ってこと!?


 それを聞いてみると、倉片さんは頬を朱色に染めて恥ずかしそうにうなずいた。マジらしい。



 わぁ、嬉しい!!



 片思いだと思っていたのに、両想いだったなんて!

 つか、それが一番の理由とか最高すぎんだろッッ!



 生きていて良かったああああああああああ!!



「マジでラブ?」

「うん、マジのラブ」



 うっひょー!!

 これは驚いた。


 なぜ、こんな俺なんかを好きになってくれたんだ? その理由の方が知りたいね。



「教えてくれ。高校時代は知り合いみたいな関係だったじゃん? 俺のどこにかれる要素が……?」


「んー、強いて言うのなら全部かな」

「ぜんぶ?」


「うん、昔から優しいし、助けくれたし。ずっと恩を感じていたんだ」



 にこりと女神のように微笑む倉片さん。いや、マジで女神だった。可愛すぎんだろ! つか、高校時代の俺ナイス!

 確かに、高校時代は倉片さんを助けていたような気がする。

 席が隣だったからな。


 教科書を忘れた時はよく見せていたし、テストの分からない問題を教えてあげたり……協力が必要な状況では一緒にになったり。

 思えば俺たちは、友達以上恋人未満のような不思議な関係であった気がする。



 ――ああ、そうか。



 最初からそうだったんだ。


 なら、この俺の秘めた思いを伝えるのもアリだろうか。アリだろうな。



「倉片さん、好きだ」

「…………キョウくん! うん!」



 恥ずかしそうに俺の腕に抱きついてくる倉片さん。返事は『オーケー』だった。

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