第23話 撮影を忘れて普通にシてしまった

 撮影しながら、というのは予想以上にむずしい。

 スマホを片手にヤるとか、こんなに難易度が高かったのか。……知らなかった。

 しかも、カメラを意識しなければならなかった。

 気にせず撮ると手振れが多かったり、肝心かんじんなところが上手く映像に収まっていなかったりなど微妙になってしまい、見るにえない動画になってしまった。


「むー…。すまん、不器用で」

「撮影しながらって難しいんだね」


 二つの意味でしょんぼりする倉片さん。


 一つは俺を満足させられなかったこと。

 今しがた彼女は口で俺の“全て”を包み込んでくれた。しかし、撮影となるとカメラが気になるのか、あまり集中できていないようだった。


 もう一つはテスト撮影が失敗だったことだ。

 いきなり上手くいくとは思わなかったけど。

 しかしこれは更なる練習をしないとイカンな。


「俺のカメラワーク技術もみがかないとダメだな」

「まだ練習だから、これからがんばろうね」


 自分をはげますように倉片さんは、決心の目を俺に向けた。おぉ、やる気あるね。

 という俺も、ちょっと燃え上がっていた


 失敗は成功のもと。

 ここからがスタートだ。


 その後も倉片さんの時間が許す限り、様々な体位を試してみた。しかし、途中でお互いに興奮しちゃって撮影どころではなくなり――結局、ラブホでシていたような悠久ゆうきゅうの時を過ごしてしまったのである。



 ……あれ、これではいつもと変わらないじゃん!



「……も、もう力が尽きた」

「わ、わたしも無理。限界だよぅ……」



 ぱたりとベッドに倒れる倉片さん。

 俺も一緒に倒れ、彼女の胸の中に落ちる。……あぁ、この感触が最高だ。



「結局普通にシてしまったな」

「お金もらってないのにー…」

「あとで払うって」

「うん。一万円だからね」

「分かってるよ」



 手持ちがないので、ヘソクリから崩すしかないな。



「冗談だよ。今のは練習だからカウントしない」

「よかった。この前の五万で所持金がきびしかったからさ」

「あ、そっか。ごめんね」

「いいよ。それより、また練習しよう」

「報酬の為にがんばらないとね!」


 そうだ。お互い金を稼ぐ為という最大の目標がある。俺が稼ぐことによって倉片さんに支援しえんできるし、倉片さん自身も出演料ギャラが入って嬉しい。

 どうして、そんな大金が必要なのか分からないが、倉片さんが幸せになってくれるのなら俺はなんだってするさ。




 結局、伊勢崎さんも織田も帰ってこなかった。

 顔くらい出せよ……!?



 退勤時間も決められていない職場なので、俺は適当な時間に帰ることにした。

 時刻は十九時。


 倉片さんも一緒に帰宅することに。


 職場のマンションを去り、駅まで向かう。




「お疲れ様、倉片さん」

「キョウくんもおつかれさま。今日はありがと」



 周囲にそれなりに人がいるというのに、倉片さんは大胆だいたんにも俺に抱きついてきた。……お、驚いた。今までにないパターンだぞ、これは。



「ど、どうしたのさ?」

「特別サービス。というのはウソかな」

「え?」

「そういう気分だったのっ」

「ほ、ほぉ?」


 どういう気分だったんだろう。あ、いや、めちゃくちゃ嬉しいけどね!


 俺たちの周囲を歩く男共がうらやましそうに見てくる。こっち見んなっ。



「じゃ、お仕事行ってくるね」

「ああ、そうか」



 倉片さんは『見学店』で働いているのだった。そうか、ちょうど出勤時間であったか。制服とか着て……パンツとか客に見せているのだろうか。


 気持ち的にちょっと複雑ではあるものの、生活の為なのだろう。だとしたら、俺に止める権利はない。

 まあ、他の男と体の接触さえなければなんでもいいさ。


 しかしちょっと気になるな。


 尾行びこう、してみるか……?

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