第21話 立ちんぼをやめてAV女優へ

 あれから倉片さんから返信がきた。



興味きょうみがあるから行くね!』



 と、かなりノリ気な返答があった。この分なら、そのまま出演してくれそうな気さえしてきた。

 住所は伝えたのでスマホのマップを使って来れるはずだ。

 それまでは動画編集スキルをみがいていく。

 しかし、伊勢崎さんも織田も配信やらSNSの更新で忙しいようで……独学でやるしかなかった。そんなんでいいのかよ。ひょっとすると放任主義ほうにんしゅぎなのかもしれない。


 おかげでやりたい放題できるので構わないが。


 仕方ないので自分で調べながら編集方法を学んだ。編集ソフトはインストールされていたし、思ったよりは自力でいけそうだ。


 一時間ほどするとスマホに『到着したよ~』とメッセージが飛んできた。俺は直ぐに玄関へ向かい、倉片さんを出迎えた。



「待っていたよ」

「お邪魔します、キョウくん」



 可愛らしいワンピース姿の倉片さんがそこにはいた。なんて可憐かれんなんだ。ぜひ、一枚写真を撮って壁紙にでもしておきたい。


「どうぞ、こっちへ」


 とはいえ、俺もまだ二日程度しか来ていないので、どう対応していいか悩む。ひとまず、編集部屋でいいか。


 奥まで案内する。

 機械やら配線やら、やたらゴチャゴチャしている部屋に倉片さんは若干じゃっかん引き気味だった。多分、未知との遭遇的な感じ。


「こ、これはすごいね……」

「俺も最初見た時はビビったよ。これで動画編集してる」

「へえ~、かっこいいね」


 かなりのハイスペックPCだということは伝えた。細かくは分からないので省略。


「そのうち伊勢崎さん……上司と、あと俺の知り合いの織田ってヤツが現れると思う」

「そうなんだ~?」


「伊勢崎さんは、この前暴漢ぼうかんから助けてくれたギャルね」

「あー! あの人ね! って、上司なの!?」

「もともとはスキマバイトのコンビニ店長だったんだけどね、辞めたらしい」



 事情を伝えると倉片さんは困惑こんわくしていた。だよな。うん、それが普通の反応だと思う。

 普通、意味不明だと思う。でも、これが現実なのである。

 更に言えば伊勢崎さんは不定期出勤のキャバ嬢でもあるわけでして。とんでもない人だよ。



「織田って人は?」

「そいつはアパートの部屋を提供ていきょうしてくれていてね。実質俺が住んでいるんだが」

「どういうこと!?」


 そういえば、倉片さんには織田のことを話していなかった。俺は現状を伝えた。織田とは大学の知り合いであることを。アメリカ人で女であることを。


「――というわけなんだ」

「ちょ、女の子と同棲どうせいしてるじゃん!」


誤解ごかいしないでくれ。俺がほとんど家にいて一人暮らしだよ」

「そ、そう言われても……」



 あれ……倉片さん、ちょっとふくれてる? 不満げな表情を浮かべ、ソワソワしている。……イカン。アパートのことはせておくべきだたか。



「俺と織田はなにもないよ。アイツの好意のおかげで俺は都内にいられるからね」

「そっか~。ちょっと気になるけど、今は気にしないでおくね」



 渋々ながらも倉片さんは納得なっとくしてくれた。

 胸をなでおろしていると、伊勢崎さんが編集部屋にやってきた。



「おまたせー。……あれ、見たことある女の子がいる!」



 顔を輝かせる伊勢崎さん。さっき説明したばかりですけどね……!?



「はじめまして。わたし、倉片と申します」

「そんな堅苦かたくるしくなくていいよ~。よろしくね、倉片さん」

「はい、よろしくお願いします!」


「うんうん。ところで、キョウくんと付き合ってるの?」



 いきなり、なんちゅうことを聞くんだ伊勢崎さん! しかし、倉片さんがどんな風に答えるのか気になるといえば、気になった。


 固唾かたずをのんで見守っていると――。



「えっと……。はい、ちょっと近いかもしれません」

「ほ~~~~~~!」



 伊勢崎さんは感心するかのように、そんな期待していたかのうな返答にく。俺は俺で、内心ドキドキしていた。


 近いかもしれない!? そ、それって友達という関係ではないということかな。もしかして、恋人に限りなく近いかもしれない!


 倉片さんの気持ちを少し知れただけでも、俺は嬉しい。ナイスだぜ、伊勢崎さん。



「で、ストレートに聞くけどAVに出ない!?」

「…………え」



 直球すぎんだろ!!


 俺も倉片さんも固まった。伊勢崎さんの勢いが凄すぎて……。



「倉片さんほど可愛いコなら、数十万どころか数百万再生も余裕だわ! もちろん、ギャラは高額よ。……そうね、まずは百万円でどうかしら?」



 とんでもない金額にぶったまげた。ちょ、まて! ギャラ百万円!? そんなに払ってくれるのかよ。伊勢崎さんって金持ちなのか。



「そ、そんなにいただけるんですか……?」

「まあ、顔出しが条件になっちゃうけどね。マスクありで三十万円。顔出しナシなら十万円。あと露出が少なかったり、時間も短めなら更に低くなるよ」


 容赦ようしゃなく条件を付けくわえる伊勢崎さんは、まるで逆オークション形式で値段を提示ていじしていった。

 なるほど、そうあおることで交渉しやすくしてんのかな。考えているな。


 顔出し動画で百万円と言われれば、そっちを取りたくなるわな。


 てか、これなら“立ちんぼ”する意味なくなるわな。まあ、けど相手が俺のままなら、どんな形でも構わないさ。他の男なら許さんが!



「う、う~~~ん……」

「悩むよね。そんな直ぐ決めなくていいからさ、ゆっくり決めて!」



 相変わらず伊勢崎さんはマイペースだな。しかも、配信へ戻ると言って部屋から去った。


「どうする? 倉片さん」

「百万円なら考えちゃうね。あと相手がキョウくんならいいけど……」


「マジか。多分そうなるよ。男は俺しかいないし」

「そっか~! じゃあ、アリだね。一緒にえっちな動画作って稼ごっか!」



 決まったな。これで倉片さんは今日からAV女優の道を一歩進み始めた。このまま、立ちんぼから足を洗ってもらえるなら、俺としても嬉しい。

 知らん男に体を売って欲しくないし。


 これからの撮影が楽しみだな。

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