第20話 AV撮ろうか!

 一度、帰宅した。あの織田の借りているアパートへ。

 ひとりさびしく部屋に舞い戻る。……なんだろう、この物足りない感じ。

 やはり、倉片さんがいないと俺はダメかもしれないな。


 せめて、昨晩やその前のラブホでの記憶を思い出していく。


 ……あぁ、最高。


 アレを写真に収められれば鮮明に思い出せて楽なのだが、俺の脳内メモリーに残されているので、まあいいか。

 それに、またいつでも会えるはず。

 むしろ倉片さんの方から会いたいような言い方さえしていた。今後も期待できそうだ。

 幸せを抱えたまま、俺は敷布団しきぶとんの中へ落ちた。

 寝不足だ……大学サボって寝ようっと。



 ◆



 なぜか知らないが今日の午後から初出勤だ。

 どうやら、我が職場は時間にとらわれないタイプらしく、伊勢崎さんは「いつでも出勤していいよ」と言ってくれた。

 そんなテキトーでいいのかよ。


 だが、普通の職場ではないことは確か。


 職場の責任者は伊勢崎さんのようだし、彼女が良いというのなら、愚直ぐちょくしたがうだけだ。



 午後十五時。

 あれから、ずいぶんと寝てしまった。そろそろ職場に顔を出さないと怒られそうだ。本来なら“大遅刻”で即クビになっても、おかしくはない。


 しかし、スマホのメッセージには伊勢崎さんから「いつでも来てね~」と織田の「マッテルヨー」の楽観的な二件が入っているだけ。


 そんなんでいいのか……。


 どちらも顔見知りとはいえ、ここまでゆるいとはな。とにかく、準備を進めていかねば。


 サクっと着替えて、サクっとアパートを出た。


 職場であるマンションへ向かう。徒歩でいけるのはありがたいな。



 到着して扉を開ける。中へ入って編集部屋へ向かった。そこには伊勢崎さんと織田の姿があった。



「おはようございます」



 遅れたことをびるつもりでも、俺は深々と頭を下げた。



「やっときたのね、キョウくん! おっはよ」

「オハヨゥ。オソカッタナ~」



 けれど、二人とも気にしておらず、普通に挨拶あいさつを返してくれた。こんなんでいいとはホワイト企業も驚きの神職場かな。



「さっそく仕事していこうと思います。伊勢崎さん、なにか教えてください」

「じゃー、AV撮ろうか!」


「そんな笑顔で!?」

「だって、それが業務だもん~」



 さも当然に。……いや、そうだな。それが仕事だったか。

 ああ、でもその前に話しておかねば。



「そうでした、伊勢崎さん。少し話が」

「ん? いきなり退職代行で辞めるとかやめてよ~」

「そんなじゃありませんよ。えっとですね、俺の連れがAVに興味あるようです」


「マジで! 出演してくれるの?」


「多分、ですけどね。ちなみに、助けてくれた時にいた女の子ですよ。倉片っていう」

「あ~! あの可愛い子ね。え、凄いね! あの子が!?」



 伊勢崎さんは信じられないと目を白黒させた。

 だよなぁ。というか、そもそも倉片さん自体が“立ちんぼ”をしているわけでして。多分、伊勢崎さんはそのことを知らないかも。

 本当のことを話してよいか悩んだが――立ちんぼのことは一旦保留にしておく。



「一応、彼女は『見学店』で働いているんですよ」

「え! 意外すぎない!? あんな可愛い子がなんで……」

「さあ? 理由までは聞いたことがなくて」

「ふぅん。でも悪くないね。あの子なら海外エロ動画サイトBoinhubで稼いでくれそう」


 わくわくと目を星のように輝かせる伊勢崎さん。織田も同様の反応を示していた。二人ともノリノリじゃないか!


 でも、倉片さんなら凄く再生されそうだな。



「できれば、顔は隠してあげてください」

「え~。顔は重要だよ?」

「顔隠してる動画もたまにあるじゃないですか~」

「そうだけどねえ。それか『FC1-PPV』にしてみる?」



 FC1-PPVか。ペイパービューは、有料動画として売る方法だ。FC1の場合は個人撮影がほとんどで、素人とかが好きな連中が好んで買うようだ。

 という俺も、少し前にコスプレのヤツを買ってみたことがあったりする。



もうかるんです?」

「うん。ある投稿者は年間で一億円以上の売り上げがあるってさ」

「す、すご!」


「エロは偉大だよね。まあ、無修正で捕まっちゃったけどね!」



 あはは~と笑う伊勢崎さん。……おいっ!

 やっぱり、リスクはあるんだなぁ。



「てか、ウチは大丈夫なんでしょうね!?」

「その辺りは対策してるから大丈夫。モザイクもバッチリだし、その為にキョウくん欲しかったわけで」



 俺はモザイクの処理およびチェック屋かよ。そういうアダルト映像関係の仕事が実際にあるらしい。AV見ながらモザイク処理できるとは……最高すぎないか?


 どうやら伊勢崎さんは真面目にやっているようで、アップロード自体もわざわざ海外の知人に頼んでいるらしい。海外からの投稿なら法律にも引っ掛からないとかなんとか。そんな裏技があったとはね。



「分かりました。倉片さん、呼んでみますね」

「いいね! あの可愛い子なら、売れまくるよ~!」


 期待値上がりまくってるな。実際、売れるだろうけど。

 倉片さんが来るまでは編集のやり方でも教わっていよう。

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