第18話 記憶が吹っ飛ぶほどの熱い夜

 今夜は“装備なし”で出陣する。

 倉片さんは不安そうではあるものの、嫌でもないようだった。薬を服用しているし『安全日』だから大丈夫だと思うと言った。今時はアプリのナルナルで生理などの体調管理ができるらしい。そんなアプリがあったとはな、知らなかった。



「そこまで管理していたとはな。当然とうぜんか」

「うん。やっぱり怖いからね」

「じゃあ、今日は0.00でいいのか?」


「いいけど、料金は貰うよ~? で、出来ちゃった場合の責任も取ってよね……!」



 さすがに0.00の場合は、別料金らしい。

 仕方ないかー。

 今回ばかりは50,000円を請求せいきゅうされた。さすがに高額だな。というか、入社祝いとピッタリの額! よかった、ちょうど所持金があったぞ。

 てか、50,000円でいいのかよ。それでも安い気がする。


 いやしかし、そこそこのお店へ行けば 真の本番行為NS・NNなんて普通にあるらしいからなぁ。

 それを考慮こうりょすれば、この50,000円という相場は妥当だとうかもしれん。

 それに、万が一にも出来てしまったのなら、俺は責任を取る覚悟だ。

 倉片さんと出来ちゃった婚するしかないッ!

 むしろ本望だけどな!



「分かった。その方向で頼む」

「じゃ、ご、ごまんね」

「おう」



 いったん、浴室から出て財布から諭吉と渋沢を取り出す。そういえば、最近新札に変わったのを思い出す。絵柄の混じったお札五枚を倉片さんに差し出した。

 たった一日で大金が吹き飛んだが、後悔こうかいはない。

 俺も倉片さんも、これで幸せになれるのだから。



「ありがと、キョウくん」

「ああ、どうせなら万札を一枚ずつ追加でにぎらせてヤるのも……」


 ふとそういうエロ動画を思い出した。


「ば、ばか。ヘンタイ……」


 迫力なく、可愛く怒られた。

 さて、交渉成立となった。もうこうなっては後へは引けないし、そのつもりもない。先へ進むだけだ。


 そのままベッドへ向かい、俺は倉片さんを押し倒す。全身をくまなく愛し、準備を整えた。



「そろそろ……」

「う、うん」



 緊張しているのか倉片さんは顔をそむけた。いつも以上に顔を赤くしている。



「いくよ」

「…………」



 反応はない。多分、もういつでも良いということだ。

 俺は0.00の向こう側へ向かう――。


 奥へ奥へと。


 ・

 ・

 ・


 記憶がない。なにも覚えていない――わけではないが、ひたすら腰を動かしていた気がする。おかげで腰痛になりかけているが、そんな痛みよりも幸せに満たされている。


 あれから夜が明けるまで倉片さんと時間を過ごした。


 ……あぁ、すっかり外は明るくなっているな。

 時間を忘れて一晩中ヤっちまったようだ。


 一泊してしまったので宿泊料金も取られてしまうな。けど、もうこの際どうでもいい。この健康けんこうな体がある限り、金はいくらでも稼げるのだから。



「…………」



 裸のまま眠る倉片さん。俺もそろそろ限界だ。寝るか。



 ◆



 少し寝て起きると下半身に違和感を感じた。



「ぬ!?」

「おはよ、キョウくん」


「ちょ、え!? 倉片さん、なにを……」

「お掃除してたの~」



 ま、まさか俺が寝ている間にずっと顔をうずめてそんなことを!


 こんなに俺を愛してくれる倉片さん。いっそ、付き合いたい……!

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