第17話 0.00の向こう側へ

 話をしながらも風呂へ向かった。まずは体をきよめる。

 さすがに脱ぐところは倉片さんも恥ずかしく感じるようで、俺が先に脱いで浴室へ。

 中はこれまた広くて異次元だった。

 なんだこのエロっちくなジェットバス。広いだけでなくてピンクな照明が浴室を照らしている。

 新世界すぎる空間に度肝どぎもを抜かれつつ、俺はシャワーの前へ。先にお湯を出して浴びた。


 少しするとバスタオルに身を包む倉片さんが現れた。



「お待たせ」

「お、おう。別に隠さなくてもいいのに」

「は……恥ずかしいのっ」


 すでに隅々まで鑑賞かんしょう済みなんだけどなー。


「今日は俺から倉片さんを洗うよ」

「う~…」


 困ったような顔をするものの直ぐに観念する倉片さん。もう連日、裸の付き合いをしているのだ。慣れて欲しいものだな。という俺も、まだそんなには慣れていなかった。

 ぎこちない動きで、俺は倉片さんのバスタオルをうばっていく。



「取るよ」

「…………うん」



 倉片さんを包むタオルをがし、生まれたままの姿に変える。

 相変わらず国宝級のエロボディだ。

 何度見ても見飽きない。

 この神秘を俺が洗えるのだ。なんて良い日だ。



 シャワーを手にして倉片さんを隅々すみずみまで洗っていく。これだけで生きていて良かったと思える。

 それから俺も汚れを落とし、綺麗きれいにした。



 ――さて、もう準備万端じゅんびばんたんだ。



 今夜はジェットバスに浸かりながら、ゆるりと楽しいことをする。

 少し移動して浴槽よくそうへ。



「この中でシよう」

「お、おっけー…」



 気が動転しているのか、倉片さんは美しく長い髪を落ち着きのない様子でいじっていた。

 いちいち動作が可愛すぎるぜ……。


 腰を下ろし、お湯につかかってまずはゆっくりと。疲労を回復していく。



「…………ふぅ、いいお湯だな」

「だねえ。ジェットバスが背中に当たってマッサージになって気持ちいよぅ」



 頬を赤くして落ち着く倉片さんは、その小さな頭を俺の肩に寄せてきた。以前にもこんな風にしてくれたことがあった。これ、恋人みたいで好きだな。


 静かな時間が流れていく。


 会話が続かないというか、話題がないというか。

 それとも黙って行為をはじめてしまうか。



「……そ、その」

「ねえ、キョウくん」


「ん?」


「赤ちゃん……欲しい?」



 などと上目遣うめづかいで聞かれ、俺は心臓が一気に高鳴った。



(ドドドドドドドドドドドドドドドドドド…………)



 ちょ、ちょ、ちょおおおおお!?

 倉片さん今、なんて!?



「はぃ!?」

「なんてね、冗談だよ」

「な、なんだ……冗談か」


「なんか会話が止まっちゃったからさ」

「なるほど…………」



 しかし、さきほどの不意打ちセリフのおかげで俺の“偉大なる不動明王アンチマテリアルライフル”は咆哮ほうこうを上げそうなほどに怒髪衝天どはつしょうてんし、今やウルトラスターを手に入れた無敵状態。


 すなわち、究極完全態・俺である。


 ギチギチのガチガチとなった“偉大なる不動明王アンチマテリアルライフル”は、もはや怒りが収まらない。


 更に言えば理性を完全に、徹底的に破壊されてしまった。今の俺は新人類へ進化し、ニュータ――以下略をも超越ちょうえつした存在。



「ど、どうしたの? キョウくん?」



 不安気に俺を見つめる倉片さん。君のせいだぞ……!



「もう止められない……」

「え」


「倉片さんと[ズッキューン!!]、[ズドドドドドド!!]、[パオパォオオオオォォォン(怒)!!]なことしたい……」



 ハッキリ言葉にすると彼女は赤面して、そのまましずんでいく。ぶくぶく、ちゃぷんとお湯の中へ消えていく。


 ……い、いかん。ストレートすぎたか!


 あまりに生々なまなましすぎて引かれてしまったかもしれん。だが、すべては倉片さんのセリフのせいだ! あれが俺のネジを飛ばさせた要因である。なので全ての原因は倉片さんに帰結するのだ。

 冗談とはいえ、火をつけてきたのは彼女の方なのだ。


 だから俺は沈みゆく倉片さんの体を持ち上げ――抱いた。



「……っ!」

「責任は俺が取る!」


「ま、まって! さっきの冗談。ジョークだから! な、中はだめだからね……」



 今日の俺は紳士しんしを止めた。『0.00』の世界へ向かう――!


 新世界ゲートの向こう側へ!

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