第16話 なんだかんだラブホへ

 倉片さんを連れ、遠くへ向かう。警察の目の届きにくい場所へ。

 聖地からはなれればこっちモンだ。

 駅に近い人通りの多い場所へ来た。

 この辺りならもう安心だ。


「ふぅ。一時はどうなるかと」


 冷や汗をぬぐいながらも、倉片さんの表情をうかがった。顔色を妙に悪くして、息を乱していた。


「…………こ、怖かった」


 そう不安そうにつぶやく。

 そうだな、一歩間違えば補導ほどうあるいは逮捕たいほされていたかもしれない。


誤魔化ごまかせて本当に良かった」

「うん、今も心臓がドキドキしてる」


 胸を押さえる倉片さん。

 呼吸を乱し、今にも倒れそうだ。


「どこかで休憩しよっか」

「そうだね。ちょっと疲れちゃった」


 ――とはいえ、今夜はラブホに近づかない方がいいかもしれない。また警察のお世話になるのは嫌だからなぁ。

 しかし、真の目的は倉片さんと幸せな時間を過ごすことだった。ヤれないのは非常に残念だが……。


「どうする?」

「ラブホ……いく?」


 自ら提案ていあんしてきて俺はおどく。それが本来ではあったけれど。……そうだ、そうだよな。


「近場じゃなければ問題ないか」

「たまには離れた場所にするのもアリかもね」



 ニコッと天使のように微笑む倉片さんは、俺の手を握った。恋人繋ぎだった。

 もうこのまま雰囲気のまま、自然のままに流されていこうと思った。その方が気楽でいい。なによりも願ったり叶ったり。


 俺は倉片さんに同意した。



 ちょうど駅前だ。

 切符きっぷを購入して、隣町へ向かった。移動中にスマホでラブホを調べていく。サクっと出てきた。さすが都内だな。



 隣町の駅に到着。そのままラブホを目指した。



 明るい道を歩いて、多くの人とすれ違っていく。俺と倉片さんは大人のお店が立ち並ぶ怪しげな通路へみちびかれるように進入。

 スマホのマップのナビがここを指していたので、仕方がなかった。



「な、なんだかすごい場所だな……」

「そ、そうだね。わたしがつとめているようなお店が多い」



 そういえば、倉片さんは普段『見学店』で一応働いているんだっけ。さすがに俺との契約だけでは生活が苦しいということだろうけど。でも、これからはやしなってあげることも可能かも。



「あとで大切な話がある」

「え……」



 ホテルに到着したら例のことを話そうと思った。

 まずは向かう。それからだ。



 ◆



 ラブホに到着した。受付を済ませ、そのまま指定の部屋へ足を運ぶ。さすがにちょっとれてきたが、それでも緊張感はあった。

 手をつないだまま、ついに部屋に到着。


 今までとは違う豪華ごうかな内装におどろく。



「こりゃ広いな。てか、めっちゃピンク……」

「そ、そうだね。なんかえっちな雰囲気だね……」



 俺も倉片さんも立ちくす。

 なんだこの中世の貴族みたいな部屋。すごい造りだな。こんなレトロでシックなベッドやソファ、テーブルをどこでそろえたのだか。

 というか、異世界に迷い込んだみたいで新鮮しんせんだ。それは、倉片さんも感じているようで、明らかにソワソワしていた。


「変わったデザインだね」

「うん。なんか気分とか盛り上がりそう」


 いったんソファへ向かい、気分を落ち着かせることに。


「ふぅ……」

「やっとゆっくりできるね」

「そうだな。……あ、そうだ。先に大切な話をしなきゃな」

「そうだったね。それで、なんの話?」


 ゆっくりとこちらに視線を向ける倉片さん。真面目な顔を向けられて、俺はドキリとした。しばらくお互いを見つめ合う。


 話さなければ、俺のことを。



「実は……今日、早くも就活しゅうかつをしてね」

「え。キョウくん、もう働くの?」

「大学生を辞めるつもりはないんだが、どうしても稼ぎたくて」



 この夜の為に。ないよりも倉片さんの為に。

 だから『動画編集者』になったことを打ち明けた。

 知り合いの職場で働くこと、月収30万円以上が望めること。そして、AVを作るかもしれないことを。


 ウソ偽りなく、全てを包み隠さず話した。彼女にウソだけはつきたくないからだ。


 話し終えると、倉片さんは少しビックリしたようは表情をして――けれど、微笑ほほえんだ。



「すごいじゃん、キョウくん! えらいえらい!」



 天使のようにめてくれる倉片さん。俺の頭をでてきた。こうして認めてくれることが嬉しくてたまらなかった。……良かったぁ。

 思わず涙が出そうになった。


「……っ」

「どうした、キョウくん?」

「いや、嬉しくてさ」

「うんうん。というか、面白そうな職場だね」

「だろ~。あんまりないよな、エロ動画の撮影と投稿する会社なんて」

「AVの会社みたいだね」

「ちょっと違うけど、似たようなものだな」



 倉片さん食いつきいいな。もしかして興味あるのかな……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る